【明治東京恋伽】月夜と黒猫のワルツ (ページ38)

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チャンスが裏目にページ38

それは夜中の事だ。

自分の部屋へと帰ってきて、ベッドに潜り込んだ私はずーっと現代の家族のことを思い出そうとしていた。

私がいつも着けている黄色いヘアピン。
何故だかわからないけど、これを手放すことが出来ない。

貴「……どうしてなんだろう……」

そう呟いたところで返事があるわけがない。
とりあえず、今日はもう寝よう。

そう思って寝返りをうった時だった。

ヒヤリッ……

突然首筋にひんやりとした風があたりベッドから飛び起きる。

貴「な、なに！？」

窓でも開けっ放しだったのだろうか。

「ニャァァ……」

貴「猫……？」

窓際の机に一匹の黒猫が優雅に座り込んでいた。
月明かりに照らされて輝く体全体はとても幻想的で思わずボーッと眺めてしまう。

貴「………っ！春草さんっ！」

そういえば、今朝、春草さんの眺めていた黒猫を逃がしてしまったのを思い出して、慌てて廊下に飛び出した。

隣の春草さんの部屋の扉を数回叩くととても眠たそうな春草さんが出てくる。

春「こんな時間になんのよう」

貴「猫なんですっ！」

春「はっ？」

ちょっと来てくださいっ！と春草さんの腕をつかんで自分の部屋へと入っていく。

貴「ほらっ！ここに黒猫が！」

先程まで猫の乗っていた机を指差した。

そう。先程(・・)までは。

春「……なにもいないけど」

貴「えっ！？そ、そんなはず………」

机へと視線を向けたが、確かにそこには何もなく。ただ、月明かりが花瓶の花を照らしているだけだ。

貴「い……ない？」

春「はぁ……寝ぼけてたんじゃないの」

私が机を凝視していると、隣から深いため息が聞こえてビクリと肩を揺らしながら春草さんを見た。

明らかにおこだ。
それも激おこ。

貴「はい………」

春「もういいかな。明日も早いんだけど」

貴「はい……すいませんでした。」

バタンッ！

容赦なく閉められる扉にヘナリとその場に座り込んだ。

春草さんを喜ばせるどころか怒らせるとは………
何故だかやることなすこと全部が裏目に出ている気がする。

貴「………荷物まとめておいた方がいいかな……」

静寂の部屋で一人盛大にため息をついた。