【明治東京恋伽】月夜と黒猫のワルツ (ページ21)

今日:8 hit、昨日:16 hit、合計:69,448 hit

牛鍋たいむ。ページ21

えっ？今………答えてくれた……？

目を丸くして春草さんを見ると「なに」と睨まれてしまったが。

玄関に向かっていった彼の後ろ姿を見送りながら、ニヤニヤしそうになる口を押さえた。

フミ「ホントにお客様はゆっくりしていただいていいんですよ？」

貴「いえ！体を動かさないと鈍っちゃうので！」

フミ「ふふふっ……変わったお客様だこと。では、窓拭きをお願いしますね」

午前中。私はフミさんに頼んで屋敷の掃除のお手伝いをさせてもらった。
私にはこれくらいの恩返ししか出来ないし、なんでもいいからこの優しい人たちのお役人立ちたいと心から思ったからだ。

貴「(そうだ……チャーリーと芽衣ちゃんはどうなったかな………昼食が終わったら日比谷公園に行こうかな………)」

そう思いながら窓を吹く明治初の午前中だった。

そして午後。
帰ってきた鴎外さんと春草さんと共に私は牛鍋という食べ物を食べに「いろは」というお店にきていた。

貴「(うわ……すごくお洒落………)」

外装もだが、内装も色ガラスが使われていてとても幻想的だ。

鴎「さぁ、どんどん食べてくれたまえ！」

そしてその幻想的な空間を一気に現実に引き戻す、鉄板と焼ける肉の匂い。

貴「いただきます。」

春「いただきます。」

二人して箸を手にとって肉を拾って口に運ぶ。

その瞬間、口の中に肉汁がたっぷり広がる。
某グルメレポーターではないがまるで肉汁の宝石箱だ。

鴎「うんうん。たくさん食べなさい。足りなければ追加すればいい。」

さすが鴎外さんだった。
こんな豪華な店、相当高いだろうに。

鴎「どうだい？「いろは」の牛鍋は」

貴「とっても美味しいですっ！
あ、でも………どうして私なんかに、親切にしてくれるんですか？」

よくよく考えてみれば彼らが私にここまでしてくれる理由がわからなかった。

だって私はどこから来たかわからないような馬の骨だ。

助けてやる義理なんてどこにもないはずなのに。

鴎「そんなの、決まっているではないか。かわいいご婦人に感謝されたいからだ」

貴「…………えっ？」

予想を遥か斜めにいく鴎外さんの回答に私はポカーンと口を開けたまま固まってしまった。