【明治東京恋伽】月夜と黒猫のワルツ (ページ16)

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紳士らしいとはページ16

あ………私が泊まるのは決定事項なんだ………。

でも本当に物の怪がいるというのなら………ご迷惑かもしれないが少しだけ休ませて貰おう。

それより………どっちに部屋まで案内してもらおうかな………。

貴「……じゃあ、お願いします」

少しだけ考えてから私は春草さんに向かって頭を下げた。

彼は案の定面倒そうな顔をしたが、ついてくるように促してくれた。

春「じゃ、さっさと行くよ。」

そういって部屋を出ようとしたとき。

鴎「ちょーっと待った。春草。」

後ろから鴎外さんの号令が聞こえて足を止めた。

春「？なんですか、鴎外さん」

鴎「駄目だ駄目だ駄目だ、お前という男はご婦人に対して今ひとつ気遣いが足りない。エスコート役なのだから、彼女の手くらい取ってあげるべきではないのかい？」

貴・春「「は？/えっ？」」

見事にハモった私達。
いや、そりゃそうだ。いきなり会って間もない人と手をつないでいけ、なんて言ったら誰だってそうなる。

春「…部屋まで案内するだけなのに、なんで一々手なんか取らなきゃならないんですか。」

春草さんの最もな言い分に私も内心で深く頷いていた。

鴎「理由は１つ。それが紳士的振る舞いというものだからだ。これからの日本男児には、西洋的な所作が求められる。出来うる限り、女性は大切に扱いたまえ。」

熱く紳士について語る鴎外さんに論破されたのか、それとも面倒になったのかわからないが春草さんは短く返事をした。

春「ところで、彼女を案内するのは１階の客間でいいんですよね。」

鴎「いいや、２階の南側にある角部屋だ。」

春「南側の、角部屋ですか？」

鴎「そうだが、なにか問題でも？」

明らかに春草さんの表情が曇ったが、鴎外さんはそれすらも楽しそうに見ている。

二人は余程仲が良いんだろう。

少しのやり取りしか見てないが十分にそう思えた。

春「いえ。ただ、部屋なんて他にいくらでもあるのに何故よりによって俺の隣なのかと。」

鴎「それはこの屋敷のなかで、１番日当りのいい部屋だからに決まっているだろう。客人には最高のもてなしを提供するのが主の務めだ。理解したかい？」

貴「い、いえ！そんな！泊めてもらえるだけでもありがたいんですから、私は別に倉庫の中でもなんでもいいんですよ！？」

慌てて話に割って入ると鴎外さんは大きく口を開けて笑う。