【明治東京恋伽】月夜と黒猫のワルツ (ページ14)

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招かれざる客ページ14

鴎「夜遅くにすまない、フミさん。友人を連れてきたんだが、茶を一杯淹れてもらえないだろうか。」

そういうとフミさんはただいま………と小さく呟くと部屋を出ていった。

鴎「フミさんはうちの奉公人でね。この家のことで分からないことがあれば、なんでも彼女に聞くといい。」

貴「本当ですk……ｺﾞﾎﾝｯ………い、いえ……」

危ない危ない……フミさんと仲良くなるチャンスとか思ってつい返事しそうになった………。

鴎外さんに座るように促されてとりあえず座らせてもらうことに。

でも本当にどうしよう……。

出来れば今すぐにここを出てどこかやり過ごせる場所を探さなければ………。

　ガチャ

フミ「どうぞ。」

フミさんがお盆に湯呑みを２つ乗せて帰ってきた。そしてひとつを私の前に奧。

湯飲みからはもくもくと白い湯気が上がりお茶のいい匂いがここまで伝わってくる。

鴎「自慢ではないが、うちの番茶はうまいよ。さあ、遠慮せずにどんどん飲みなさい。」

貴「頂きます」

正直なところ喉がカラカラだったので、非常にありがたい。

　ガチャ

春「ただいま帰りました。」

するといきなり扉が開き、姿を現したのは先程鹿鳴館で会った黄緑の髪の青年………菱田春草さんだ。

彼は湯呑みを持ったまま固まる私を見てあきれたように眉を下げながら呟く。

春「うわ、本当に連れてきたのか……」

とても嫌そうな言い方だ。
そりゃそうだろう。いきなり家に知らない人が来たら私だって戸惑う。

可愛い女の子なら話は別だが。

鴎「こら春草、その言いぐさはなんだ。僕の友人に失礼だろう。」

春「友人って。さっき会ったばかりじゃないですか。」

貴「(ごもっとも過ぎる……)」

鴎「まあ、それはさておきだ。」

さておいて良いのだろうか………。と内心思いながらも湯呑みを机に置いた。

鴎「お前の名前は？」

貴「柏木……Aです。」

鴎「柏木？……この界隈では聞かない姓だ。出身はどこなのだろう？会津かい？」

貴「………多分……東京です」

鴎「多分？どういうことだい？」

貴「……私……何にも思い出せないんです……家族の顔も……家の住所も……ただ、気がついたら日比谷公園で寝ていて………」

チャーリーの事は伏せておいて、私は鹿鳴館にたどり着いた経緯を話した。

記憶がないことと一緒に。

二人はなんの確証もない私の話を真剣に聴いてくれていた。