53.仲直り ページ5
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「ところでA、気を張るってことにトラウマでもあるのか?」
『え』
フィールドの隅っこで座り、スポーツドリンクを飲みながら尋ねてくる凛さん。
結局、少しだけ休憩を取ることにしたのだ。
『いや、無いって言ったら嘘になりますけど…』
「じゃあ、あるって言えよ。素直じゃねぇな」
凛さんには言われたく無い…という言葉を噛み殺し、今度は私が凛さんに尋ねた。
『凛さんは…お兄さんを超えたいんですよね。どうしてですか?』
「兄貴が俺の人生を狂わせた原因だから」
『えぇ…』
糸師冴さん…凛さんに何したんだろ…。
凛さんも休憩してくれたことだし、そろそろ元の仕事へ戻ろうと思った。
『凛さん、その、練習邪魔してすいません…。でも、無理しない程度にしてくださいね』
「わかってる。俺こそ…悪かった」
『凛さんは謝る必要無いですよ…!』
「…キツイこと、言ったし。泣かせたし」
凛さんは、今まで見たことないくらいに申し訳無さそうな表情をした。
「あと…嫌われてもいい、とか言うな。そもそも、お前に嫌う要素なんかねぇから」
『!』
それは…少なくとも"嫌い"じゃないってことだよね。
嬉しい…
『ありがとうございます、凛さん!仲直りですね、えへへ』
そう言って、私と凛さんは別れた。
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「…あー、クソ」
Aがフィールドを出たあと、俺は芝の上に仰向けになった。
「なんなんだよ、あのドンクサマネージャー…」
俺が「嫌う要素がねぇ」って言ったのを、なんて解釈したら「仲直り」になるんだよ。
天然にも程があるだろ。
少しは意識しろよ。
「やっぱアイツ、バカなんだな…」
Aの顔が赤くなってたのに対し、俺の顔はいつも通りだった。
けど、
鼓動は、速まったままだった。
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作者名:ヒカル | 作成日時:2023年1月22日 15時