仙人掌 ページ43
我愛羅side
全く可笑しな奴だ。
貴「我愛羅くん。」
瞑想をしていると、オレの名前が呼ばれた気がした。
バッと目を見開かせると、いつもクラスの中心にいる夢主……とか言った奴がオレに微笑みを向けていた。
優しげな声とその微笑みに一瞬、忘れかけた感情が掘り起こされる様な気がして慌てて閉じ込めた。
きっと、こいつも今までのようにオレを……。
長年命を狙われ続けていたお陰で人を疑わずにはいれなかった。
『邪魔だ……殺.すぞ……。』
鋭い視線を向け、殺気を出すと驚いたような顔をしたが、目の前のこいつは悲しそうに笑った。
教室に居たオレとこいつ以外の奴らはオレの殺気に怖じ気付いてドタバタと教室を出て行く。
先程まで騒がしかった教室内が二人だけになり、この時間帯にしては珍しい沈黙が訪れる。
貴「大丈夫、我愛羅くんは私を殺.さないから。」
悲し気な笑顔を保ちながらそう言うこいつに少し苛立ちを覚えた。
根拠も無しに……よく抜け抜けとそんな発言が出来るもんだ。
オレの内の感情と連動して自然と砂がオレとこいつの周りに漂い始め、それらは目の前の奴の首を締める砂の手へと形成された。
解くことが出来ない砂の手に首を締められ、目の前の奴は呼吸がきちんと出来ずに苦しげに顔を歪めていた。
だが、その双瞳は哀しげに揺れたままオレを視界から離さなかった。
目の前の双瞳越しに見えるオレの顔は憎しみや不快で顔を歪めているのではなく、何処か苦しげに、切なげに顔を歪めているのが見えた。
そのままいつものようにぎゅっと握り拳を作ってしまえば良いのに、何故か手に力は入らなかった。
こいつに、期待しているのか。
父親には命を狙われ、姉兄や里の者には恐れられてきた。
誰もオレに近付き、ましてや寄りそうことなどせず、オレもまた人には近付きはしなかった。
そうだったのに、夜叉丸のことがあってから何も自分以外を信じようとは思いもしなかったのに、オレは目の前のクラスメイトに期待していた。
オレをここから救ってくれると。
捨てていた筈の感情は、久し振りに優しげに掛けられた声と微笑みで無理矢理引き出された。
数秒間、見つめ合うと目の前の奴が一言。
貴「我愛羅くん、私と友達になろうよ。」
何故だが頭に"友"という言葉が浮かび上がり額の傷が疼いた。
砂の手に力の籠った手を這わせ、力強くそいつは
貴「私が、君の棘を受け入れて花を咲かせてあげるっ。」
そう、オレが欲しかった言葉をくれた。
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