やっぱり ページ7
凄まじい音とともに万有は鉄骨に埋もれた。
辺りが静寂に包まれる。
どれくらい経っただろうか。
オールマイトが霧咲に勝者の旗をあげようとしたそのとき。
鉄骨が砕け、宙に浮いた。
「……派手にやられた。あんな攻撃もできるんだな」
――さすが、入試一位通過者。
万有は鼻からしたたる液体を押さえながら、ふらりと立ち上がった。
なにを考えているかわからない目が霧咲を射抜く。
霧咲はギリッと歯を食いしばった。
彼女は長期戦に向かない。それは最初からわかっていた。そしてこちらは、背中のタンクとマスクを壊されない限り戦える。
(大丈夫。いける！)
己に喝を入れるかのように霧咲は鋭い瞳で万有を見た。
「……すごい鼻血」
今までの様子を見ていた緑谷が呟く。
それに同意するかのように、隣のお茶子が頷いた。
「あれだけの障害物を壊して、浮かして、鉄骨も砕いてる。それに今もほら……」
お茶子の指さした先を緑谷を始め、ほかのクラスメイトも追う。
万有と霧咲の頭上に、砕いた鉄骨が浮いていたのだ。
「あんなにたくさんの鉄骨浮かせてたら、体に負担がかかる……」
幼なじみの戦い方にお茶子は疑問を抱いていた。
初手の不意打ちはまだしも、その後の戦い方だ。
あまりにも単純すぎた。その上、今だってなぜか鉄骨を宙に浮かせたまま。
あんなの体力を削るだけのただの愚策。
「汚いものを見せて悪いな」
鼻血を拭いながら万有は言う。
しかし、どれだけ拭っても血は止まらなかった。
「血を出しすぎたらまずいんじゃないの？」
相手がなにを考えているのか探るためにも、霧咲は声を発した。
万有は肩をすくめる。
「このくらいならまだ大丈夫」
ふと、万有は血を拭うのをやめて霧咲を見た。
「私の動きが単純なことにきっとあなたは気づいていただろう？」
「……えぇ、まぁ」
「まだ確証はないが……試してみる価値はあるだろう？」
「……？ なにを」
微かに万有の口角が上がった。
直後、万有が浮かせていた鉄骨が豪雨のように二人に降りかかる。
霧咲は反射的に頭を覆うが、鉄骨はすべて体に当たることなく、素通りしていく。
その雨に紛れて、鋭い蹴りが霧咲を襲った。
爪先がマスクに当たるギリギリで霧咲は万有から距離取るために後ろへ飛んだ。
「……やっぱり」
彼女はマスクとタンクを壊されれば終わる。
万有の攻撃を交わすとき、必ずそれらを守る動きをしていた。
疑問が確信に変わった瞬間だった。
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作者名：アリス x他1人 | 作成日時：2020年9月22日 14時
