【６月 緑】 ページ21
side 白
渡辺「阿部ちゃん、髪、伸びたな」
阿部「うん、そうなの」
しょっぴーの声に、ふと顔を上げると、
前髪が目にかかって邪魔そうにしている阿部ちゃん。
渡辺「この間は、誰が切ったんだっけ？」
阿部「えっと、ふっかさん、かな？」
そうだ、高校生になる前に切ってもらっていたけど、
ふっかさんがビビっちゃって。
『切りすぎたら、怖いじゃん』なんて言って、
めちゃくちゃ時間がかかってて。
それなのに、結局、切ったのか切ってないのか、
分かんないくらいになったんだよね。
『今度は、俺が切ってやろうか？』って言うしょっぴーに、
『お願いします』と頼んでいる阿部ちゃんだけど。
ラウ「阿部ちゃん、もう高校生なんだしさ、
ちゃんとした美容院、行かないの？」
阿部「え？」
美容師さんに切ってもらったら、
この前みたいなこともないだろうし。
阿部ちゃん、きっと、かっこ良くなると思うんだよね。
ラウ「俺、この週末行くし、一緒に行く？」
せっかくだからと誘ってみたけど、首を横に振られる。
ラウ「行かない？なんで？」
阿部「知らないところ、苦手だし。
それに……」
俯いて、手をいじっていたけど、
キョロキョロと周りを見回してから。
阿部「みんなには内緒ね」
小さな声で言って、手招きされるから、
少ししゃがんで、耳を寄せる。
囁き声で俺にこっそり教えてくれたのは、
『お金持ってないから、行けない』ってこと。
ちょっと衝撃的過ぎて、返す言葉がなくて。
渡辺「なに？」
俺が相当驚いた顔をしていたからか、
しょっぴーに聞かれたけど。
阿部ちゃんは、『言っちゃダメ』って言うし、
俺の部屋まで連れてきて、詳しい話を聞く。
どうやら、お小遣いをもらっていなくて、
自由に使えるお金を持っていないらしい。
ラウ「じゃあ、俺が払うから、一緒に行こうよ」
阿部「ダメだよ、自分が働いたお金は、
自分のために使わないと」
そう言って、頑なに首を縦に振ってくれなくて。
しょっぴーに髪を切ってもらう阿部ちゃんを、
モヤモヤした気持ちで見守った。
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作者名：アクモ | 作成日時：2023年2月1日 20時
