伍拾参──はなもも ページ8
.
夕焼けが空を柿色に染めながらゆっくりと眠りにつくころ。鱗滝左近次はそわそわしていた。半年前に最終選別を受けたまま帰ってこなかった──つまり、死んだと思っていた弟子・錆兎が帰ってくるというのだ。義勇は彼を失った悲しみを殺して任務に向かっている。いったい、どこでなにをしていたのか。
「鱗滝さーん！」
声が聞こえて飛びだすと、大きく手を振りながらこちらへ走る人物がいる。──錆兎だ、認めた瞬間、腕の中へ閉じこめた。
「ちょ、鱗滝さん、痛いです……」
「あ、ああ、すまない」体を離して「よく帰ってきた、錆兎。本当に、よく……」
年のせいだろうか、涙がぼろぼろと溢れてくる。天狗の面にはばまれて拭けないため放置するしかないのだが。
「細かいことはまた今度話しますが、彼女はA、最終日、俺が意識を失ったときに助けてくれたんです。その間に選別が終わってしまって、藤襲山で半年を過ごしました。これからは二人組で活動します」
「Aです、どうぞよろしくお願いいたします」
少女はきちっと礼をする。
「そうか、錆兎が世話になった。これから育手のところへ戻るのか」
「はい」
また後日、あらためておうかがいします、と頭を下げ、Aは歩きだす。錆兎はぽけっと惚けた顔で後ろ姿を見つめているので、
「判断が遅い。送ってやらんか」
「……あっ、はい、行ってきます」
はたかれた頭をさすりながら、錆兎はAを追いかけた。
「誰が来たの？」
山から降りてきた少女は真菰、錆兎とともに拾われた孤児である。夕ごはんのために山菜を取ってきたところであった。
「錆兎だ。錆兎が、帰ってきたんだ」
「……うそ」
「……それも、恋人を連れてな」
老人の言葉は事実か、それとも妄言か。真菰には判断がつかなかった。
ハナモモ──よい気立て、あなたに夢中
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 113人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Rabbita(プロフ) - kokonaさん» とてもうれしいです、ありがとうございます。一ヶ月に一度の更新をつづけていけるように尽力いたします。今後ともよろしくお願いいたします。 (2023年4月13日 2時) (
レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
kokona(プロフ) - 投稿楽しみにしていました！ (2023年4月8日 12時) (レス) @page39 id: d3088186d6 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ありがとうございます。 (2022年12月19日 19時) (レス) @page36 id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
かおり - よかったです！これからも更新楽しみにしてます！ (2022年10月22日 18時) (レス) @page35 id: bc17a1db16 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ご心配ありがとうございます、ただいま更新させていただきました。「待ってます」とのお言葉に本当に救われました。不定期ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。 (2022年10月16日 15時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Rabbita | 作成日時：2022年1月1日 19時
