伍拾──しゅんらん ページ5
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夕方ごろ、ついに到着した産屋敷家。錆兎は初めて見る大きな屋敷に目を白黒させていたが、Aはとくに思うところもなかった。自身も同じような屋敷に住んでいたし、またこのような家には何度も訪問したことがある。
中庭へ案内されたが、錆兎は緊張しているようだ。Aが、大丈夫、私のまねをしてね、と優しくほほえんだ。
「「お館様のお成りです」」
見覚えのある子供が声をそろえる。Aはさっとひざをついた。錆兎も遅れてそれにつづく。縁側にゆったりとした足どりで現れた人物こそ、産屋敷家現当主・産屋敷耀哉であった。
「空が高いね。もう夏が来たようだ」
ふわりと体が浮くような、包容力のある不思議な声。錆兎がちらりと顔を上げると、整った顔立ちの青年が立っていた。
「よく来たね。錆兎とA」
視線を空から二人へと下ろし、笑みを向ける。錆兎はどうすればいいかわからず、Aを盗み見ると、まだ頭を下げたままだ。あたふたと直る。
「本日は貴重なお時間をいただき光栄です。お初にお目にかかります、欅条Aと申します」
「……欅条?」
錆兎の反応は無視する。公式の場で名乗らないのは無礼だろう、いたし方ない。青年は静かにうなずいたらしかった、まるですべてを知っているとでもいうように。
「今日は二人について訊きたいんだ。前回の最終選別を受けたはずなのに、どうして今、山を出てきたのかな」
どうしてだろう、彼の問いには無性に答えたくなってしまう。錆兎はしぜんと口を開いていた。
「俺は、藤襲山で異型の鬼と会いました──」
二人で言葉を補いあいながら話す。そうして事の
「よく生きぬいてくれたね。今後のことだけれど、どうしたいのだろう」
この問いにはAが答える。
「恐れながら。私は彼と半年間過ごすうち、おたがいのよいところを活かし、悪いところを補う力を身につけました。鬼を根絶するためにも、彼と二人でいち剣士として行動させていただきたく思っております」
これは隠を待つ二日間で話しあったことだ。二人でいるほうが力が倍増する。それはおたがいに感じていた。Aは初めて頭を上げ、耀哉を見る。
視線を受け、耀哉はその力強い目に心を打たれた。そして、ほほえむ。
「……強い信頼で結ばれているんだね。では、私の直属の部下として、一般の階級制度から切りはなした二人組を作ろうか」
シュンラン──気品、飾らない心、控えめな美
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Rabbita(プロフ) - kokonaさん» とてもうれしいです、ありがとうございます。一ヶ月に一度の更新をつづけていけるように尽力いたします。今後ともよろしくお願いいたします。 (2023年4月13日 2時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
kokona(プロフ) - 投稿楽しみにしていました! (2023年4月8日 12時) (レス) @page39 id: d3088186d6 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ありがとうございます。 (2022年12月19日 19時) (レス) @page36 id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
かおり - よかったです!これからも更新楽しみにしてます! (2022年10月22日 18時) (レス) @page35 id: bc17a1db16 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ご心配ありがとうございます、ただいま更新させていただきました。「待ってます」とのお言葉に本当に救われました。不定期ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。 (2022年10月16日 15時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Rabbita | 作成日時:2022年1月1日 19時