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捌拾壱──しゃが ページ36

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 大きなため息はあまくあたたかな風にとけ、重い気持ちはうららかな日和にごまかされる。そうして春がやってきた、四度目だ、相棒を失ってから。
 やわらかなピンク色の着物に、裾には同色で七寸模様の刺繍。かたどられた桜のつぼみが、歩くたび艶やかに光をうねらせる。あわせる白帯のお太鼓が印象を落ちつかせ、しかしそこに乗る翡翠ひとつ石の帯留めがアクセントとなっていた。二十歳の成人は浮かない表情で目的地へ向かう。
 大きな門。それはかつて誇り、嫌い、恐れ、そして自分を拒絶した。その前に立っている。美しい彫刻を、あの半年前の夕方と同じようになぞる。ひとつ深呼吸をして、ノックを──
 する、直前。深みのある音をともなって視界が開けはじめた。Aは反射的に地を蹴って門の上に飛び乗る。気づかれないよう注意しつつ見下ろすと、出てきたのはあのとき「若様」と呼ばれていた青年。どうも複雑に感情が入りまじってしまい、その声や姿を排除するようにして母屋のほうへ体を向ける。
「……なつかしい」
 いつも門に守られていたから、実際に目にするのは家出をして以来、八年と半年ぶりらしい。見る者すべてを襲うような力強さはいくぶん減ったように見えるが、それでもあいかわらず壮大でりっぱだ。ここから父の執務室は見えるだろうか、一瞬考えて、いや、と首を振る。でも。そっと瞳を揺らせば、そこはAの部屋だった。障子のせいで中はうかがえないにしても胸にこみあげるものはある。あの窓から見える景色をなぞれば、いつか夢見た外の世界。新聞紙で遊ぶ子どもたちをうらやんでいた少女はいま、最高の刀を手にあちこちを駆けめぐっていると考えると、なんだか不思議な気持ちになる。
 視線をおろすとすみずみまで手の行きとどいた庭園が広がる。と、使用人たちが廊下を行き来しているのが目に入り、そろそろここにいても危険なので塀の上をつたって裏へまわる。こちらには人がいないので、少々不作法ではあるがそっと敷地へおりてみた。客人をもてなす庭園と異なって裏庭は家族の場所だ──一家だんらんの記憶などひとつもないが。奥のほうに錦鯉の泳ぐ池があって、小さいころは意味のないエサやりにいそしんだものだ。気になって覗いてみると、二匹が優雅に尾ひれを返していた。
 ふとなにかが頭に触れた気がして顔を上げる。Aをつつむようにして降っていたのは、まだつぼみばかりの桜の木だった。


シャガ──決心、反抗、私を認めて

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設定タグ:鬼滅の刃 , 錆兎 , 長編   
作品ジャンル:恋愛
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Rabbita(プロフ) - kokonaさん» とてもうれしいです、ありがとうございます。一ヶ月に一度の更新をつづけていけるように尽力いたします。今後ともよろしくお願いいたします。 (2023年4月13日 2時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
kokona(プロフ) - 投稿楽しみにしていました! (2023年4月8日 12時) (レス) @page39 id: d3088186d6 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ありがとうございます。 (2022年12月19日 19時) (レス) @page36 id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
かおり - よかったです!これからも更新楽しみにしてます! (2022年10月22日 18時) (レス) @page35 id: bc17a1db16 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ご心配ありがとうございます、ただいま更新させていただきました。「待ってます」とのお言葉に本当に救われました。不定期ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。 (2022年10月16日 15時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Rabbita | 作成日時:2022年1月1日 19時

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