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漆拾漆──じゃすみん ページ32

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 負けんじゃねえぞ、村田。負けんじゃねえぞ、村田。
「俺ならできる……」
 負けんじゃねえぞ、村田。負けんじゃねえぞ、村田。
「負けない、絶対負けない」
 ぐっと全身に力をこめる。一撃で終わらせるんだ。大丈夫、負けんじゃねえぞ。

〈水の呼吸・壱ノ型 水面斬り〉

 すとっ、ようやく鬼の頸が落ちた。冬の空気は冷たい。とくべつ強い相手でもないのにここまで疲弊してしまう自分に落胆する。
 自分に剣術の才能がないことはわかっていた。それでもめげずに努力してきた、だってそうするしかなかったから。そうするほかにやるべきことなどなかったから。
「次ハ北西」
「了解」
 本当はあのとき、やめようと思っていた。それまで一所懸命に剣を振ってきたけど、どうせ師匠のお荷物となって邪魔になってしまうなら。だからうそをついた、素振りを終えたと。これで嫌われて勘当──というのが正しいのか定かではないが──されればそれでいいと。なのに師匠は、久楽寧時は彼女をつれてきた。俺の人生を変える人を。なつかしいな、その名をAといった。
 自分にないものをすべて持っていた気がして、最初はうらやましかった。身なりからしてお金持ち。所作からして育ちもいい。鬼の卑劣さもこれから待つ苦しみも知らないのだろう、美しい未来を見るようなうっとりした瞳が印象的だった。
 しかしすぐにわかった。彼女はまさしく剣の天才だったのだ。どうして、どうしてなにもかも持っていながら、さらに剣まで。自分の持つなけなしのものを目の前で奪われていくような、そんな気持ちだった。それでも、彼女の力強く水の湧くのを嫌いにはなれなくて。
 あるとき、なぜ剣術を、と訊いてみたことがある。Aはその瞳を輝かせて、ただひとこと。
「師匠の水の呼吸がきれいだったから」
 ふざけた理由だと思った。自分は血眼一心に努力しているのになにを言う。そんなよゆうのある言葉を口にしてみたかった。苦労もなく、自分のしたいことをのびのびとして。いいなあって。
 Aだって、だれにも言えない苦しみをかかえていたとも知らずに。
「会いたいよ、A」
 胸がしめつけられるほどに、会いたい。もう無理だとわかっているけど、そう、その青い簪が揺れて、振りかえれば──
「……急遽ともに任務にあたることになった。こっちだ」
 鴉が招いた先に立つ狐の背丈は、どうも彼女にそっくりだった。


ジャスミン──愛嬌、優美、気たてのよさ、あなたと一緒に

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設定タグ:鬼滅の刃 , 錆兎 , 長編   
作品ジャンル:恋愛
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Rabbita(プロフ) - kokonaさん» とてもうれしいです、ありがとうございます。一ヶ月に一度の更新をつづけていけるように尽力いたします。今後ともよろしくお願いいたします。 (2023年4月13日 2時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
kokona(プロフ) - 投稿楽しみにしていました! (2023年4月8日 12時) (レス) @page39 id: d3088186d6 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ありがとうございます。 (2022年12月19日 19時) (レス) @page36 id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)
かおり - よかったです!これからも更新楽しみにしてます! (2022年10月22日 18時) (レス) @page35 id: bc17a1db16 (このIDを非表示/違反報告)
Rabbita(プロフ) - かおりさん» ご心配ありがとうございます、ただいま更新させていただきました。「待ってます」とのお言葉に本当に救われました。不定期ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。 (2022年10月16日 15時) (レス) id: 107e758410 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Rabbita | 作成日時:2022年1月1日 19時

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