遠くのバラより近くのタンポポ (ページ30)

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弐拾玖ページ30

たぶんこんなに必死に走ったのは、兄に逃げろと言われたとき以来なんじゃないか。

師範とくだらないやりとりをしていた。
なんの前触れもなくやってきた知らせは、衝撃的過ぎる内容だった。

「カァァァーッ！死亡！煉獄杏寿郎死亡！上弦ノ参ト格闘ノ末、死亡ーッ！！」

「えっ！煉獄さん…、が…？」

私は師範の継子になったとき、柱の下に挨拶に回っていた。

真っ直ぐな眼差しと言葉が印象的な人だった。

「A少女！君は強くなれる！心を燃やせ！」

ヒーローって、きっとこういう人のことを言うんだろうなって思った。

そんな煉獄さんが…死んだ…？

「上弦の鬼には、煉獄でさえ負けるのか。」

師範は凄く冷静だった。

でも、私には分かりましたよ。師範。

その瞳の奥は、悲しみで揺れていた…。

私ははっとした。
煉獄さんと共に、任務に向かった隊士がいたではないか。

「ぜん…い…つ…！」

頭の中が真っ白になった。
やっぱり私は、まだまだ未熟だ。師範のように冷静になれなかった。

柱が…煉獄さんがやられたんだ。もしかしたら、善逸も、炭治郎も伊之助も？

あぁ、今すぐにでも無事を確認したい…！

でも、でも、私にそんな時間は、そんな余裕はあるのか…？煉獄さんですら勝てない相手に、私なんかが勝てる訳がない。相手にすらならないだろう。
すぐにでも、鍛錬を………。

「A、行け。おそらく蝶屋敷だろう。生きているとすれば、だがな。」

「…え？」

「お前の想い人もその任務に行ってたんだろう？生死の確認くらいはしてこい。」

なんだ、師範…知ってたんですか。

知ってていじりやがりましたね？？？

って、そんなことより！

「すみません、ありがとうございます！行ってきます！」

やっぱり師範はなんだかんだ言って、私のことをよく理解してくれているし、優しいところもあるんだなぁ、と改めて尊敬した。

「…って！想い人じゃないですからね！！」

やっぱり師範には敵わないなぁ。

ったく。あいつ、俺が派手に知らないわけがないだろ。

最初は世話のかかる奴だと思っていた。だが、あいつは他人の知らないでところで努力して、気を遣って…。いつも涼しい顔して、平気です、ってすましていやがる。
そんなあいつを助けてやりたいと思った。幸せを知って欲しかった。師範として、できる限りのことはしてやりたい…。

「天元様、Aさんの想い人、無事だと良いですね…。」

「あぁ、そうだなぁ。」