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弐拾伍 ページ26

「それは重たいだろう?俺が持つよ。」




兄は優しかった。ダメな私を軽蔑したり、見下したりせず、いつも私に笑いかけてくれた。




そんな兄が、1度だけ、たった1度だけ、怒鳴ったんだ。私はただ事じゃないと思った。兄の言うことに従う以外、選択肢はないと思った。









雨が降りそうな、薄暗い、嫌な日だった。

その日もいつも通り、剣の練習をして、夕飯を食べ終え、布団を敷いている時だった。

「ひっ…!!」

なんだ…!なんなんだ!?あいつ…!!人じゃないのか??

腰が抜けて動けなくなっていた私の前に出て、父さんが応戦してくれた。

「秀成!!逃げろ!!!」

「父上!!俺も戦いま…」

「早くしろ!!!」

兄は私を担いで逃げた。

お兄ちゃん…。私は置いていってよかったのに…。
父さんだって、お兄ちゃんにしか言わなかったでしょう?
どうして私なんか…。

恐怖と困惑の中、なんとか兄に、もう自分で走れると伝えた。

「そうか…。怪我はないようだな。
…A…ここから1人で街まで行けるか…?」

「…えっ?」

心臓が止まってしまったんじゃないかと思った。
頭が真っ白になった。

「俺は、父さんを助けに行くよ。」

兄の手が震えていた。
怖いのだろう。兄は、いつもと変わらない笑顔を浮かべているが、私と同じくらい、きっと怖い。

「…やだぁ…。むりだよ…。お兄ちゃん一緒にいてよ…怖いよ…。置いて行かないでよ…お兄ちゃん…」

「…いい加減にしろ!いつもいつもメソメソ泣いてばかり!お前の面倒を見るのなんて、もうごめんだ!!とっとと行っちまえよ!!!」


お兄ちゃん…。

私は走り出した。息が苦しくても。体のあちこちから血が流れ出ようとも。







その後のことは、あまりよく覚えていない。

ただ、もう1度あの家に戻ったときには、食い散らかされた父さんの亡骸“のみ”が残されていた。

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革ベルト

ラッキーキャラクター

伊黒小芭内


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作者名:春風の通り道 | 作成日時:2020年3月24日 21時

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