遠くのバラより近くのタンポポ (ページ25)

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弐拾肆ページ25

「ごめんなさい。」

私の家は、武家の名残りが強く残っていたから、男女問わず、剣を握ることを強要されていた。

母は、私が産まれてから直に家を出ていった。

「お前は本当に駄目なやつだな！少しは兄を見習ったらどうだ？」

私は、小さい頃は体が弱く、剣を数回振るだけでもかなり苦痛だった。
だが、父はそんなことに構うことなく、私に厳しく、辛く当たった。

「ごめんなさい、ごめんなさい。」

「泣く暇があるなら1秒でも長く剣を握れ。愚か者が。」

私は、日が暮れてからも剣を握った。
走り込みや、息止めなど、基礎的な事も毎日繰り返した。

必死でやった。死んでもおかしくないと思った。それくらい頑張った。

でも、私はダメなやつだった。

私には、兄のような才能は無かった。

兄は、まるで剣士になるために生まれてきたのではないかと、錯覚させられるほどの才能を開花させていた。

「秀成、素晴らしい！お前は、本当に素晴らしい剣士になるだろう。」

「ありがとうございます。父上。」

羨ましい、とは思わなかった。

だって、私は女の子だから。
街の女の子みたいに、綺麗な着物を着て、毎日どの簪をさそうか悩んでみたり、好きな男の子との逢い引きに胸を高鳴らせ、甘味処で女友達とお喋りに花を咲かせたり…。

そんな“普通”に憧れていた。普通の女の子になりたかった。

「おい、道具を片付けておけ。」

「は、はい！お父様！」

そう言い放って、木刀を投げ捨てて、行ってしまった父の背を眺めていると、

「A、俺も手伝うよ。」

「…ありがとう、お兄ちゃん。」