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「笹木さんも走らないと駄目だってこと。
今頃、何か自分に似合うことを探してるさ」
「似合うことって、何よ」
「それは知らないけどさ」
「笹木さん、何にも持ってないし、めちゃくちゃ鈍臭いんだよ。
大丈夫なのかなあ」
「大丈夫だよ、きっと」
もう、笹木さんは出走してしまったのだ。
思い立ったが吉日。
きっと、そうなのだ。
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久しぶりの真衣と2人きりの夕飯は、とてもしんみりしていた。
真衣が正月の残りの餅でピザを作ってくれた。
それはとても美味しかったし、餅もチーズも蕩けて、なんだか楽しげな食べ物だった。
けれど、何か抜けた感じは否めない。
笹木さんの出走は喜ばしいが、寂しいものは寂しい。
「誰かがいなくなるのは、虚しいもんだな」
ぽっかり空いた胸の違和感が邪魔をして、俺の箸はなかなか進まない。
「朋也、最初は嫌がってたくせに。
センチメンタルになっちゃって」
さっきまで笹木さんがいないことに騒いでいたクセに、真衣はもう、けろりと餅を食べている。
「だってさ、俺の方が真衣より一緒にいた時間、長いんだぜ」
「そうだっけ?」
「そうだよ。
笹木さんと俺、いろんな話したし」
俺はしみじみと呟く。
「でもさ、他人が家にいると気を遣うものなんだよ。
寂しいのは寂しいけど、ちょっと肩の力が抜ける気もする。
今日から変な服装してもOKだし、バカ食いもできるしね」
真衣は気楽に言った。
勝手に笹木さんを連れて来て、いなくなってもすぐに元通り。
本当、幸せなやつだ。
「それを言ったら、俺たちだって他人じゃん」
「そうだけどさ。
私たちは何でも平気じゃない。
だからこそ朋也、帰るなり靴下を脱ぎ散らかすんでしょう?」
「確かにな」
「一緒にいる時間が増えていくと、少しずつ他人じゃなくなっていくんだね。
マンネリになることもあるけど」
真衣が眉間に人差し指を当てる。
でも、駄目な部分は何とでもできる。
対処法はいくつもある。
笹木さんが来て、それが分かった気がする。
「それより私たち、言葉が綺麗になってると思わない?
ちょっとだけど」
真衣が箸を置いて、そう言った。
「それ、俺も思ってた」
「笹木効果だね。
誰かが来ると、やっぱり何かしらの効果があるんだ。
うん、素晴らしい」
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作者名:真 | 作成日時:2022年5月22日 15時