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テレビでは箱根駅伝が放送されている。
「帰りっていうか、復路っすね。
笹木さん、駅伝好きなんですか？」
「スポーツは苦手で、あまり観戦した事がありません」
笹木さんは本当にスポーツについて何も知らないようで、選手たちを見ながら、あれこれ俺に質問をした。
こんなに無邪気に物を訊いてくる大人は、そういない。
俺は笹木さんに説明しながら、学生たちを応援した。
「あれあれ、朋也さん。
あの学生は前の選手から襷を貰っていないのに、別の襷で走り出してますよ。
あの子も」
テレビには繰り上げスタートをするランナーが映し出されていた。
「これは繰り上げスタートです。
それまでの選手が時間がかかり過ぎたから、もう待たずにスタートするんです」
「それはお得ですね」
「お得じゃないです。
もう自分たちの襷を繋げることが出来ないし、物凄く悔しいと思います」
「そうなんですか」
走り出した選手たちのやり切れない表情で、全てを察したようだ。
「でも、スタートするのですね」
笹木さんは静かに口を開く。
「前の人が到達できなくても、スタートのチャンスがある。
自分たちの襷じゃなくても、スタートしなくてはいけないのですね」
「ええ、まあ、そうですね」
「無念な思いをしても、走らないといけない・・・」
笹木さんが呟く。
静かに、しっかりと。
そうだ。
笹木さんだって、同じだ。
今までの事がチャラになってしまっても、走らないといけない。
全てを失くしてしまっても、先に向かわなくてはいけない。
公園で生活するのは、何も悪いことではない。
ゴミを拾うのは、とても良い仕事だ。
でもそれは、笹木さんが走るべきレースとは、違うような気がする。
「そうですよ。
すっからかんになったって、いくらでもやれるんだ。
ちゃんとやるべきなんだ。
だから、もっと笹木さんに似合うことをして下さい」
「『似合うこと』ですか？」
「そうです」
俺は大きく、首を縦に振る。
「それって、大学で研究をしろという事でしょうか。
またあんな無駄なことを？」
「そうじゃなくて。
どう言ったら良いのか分かんないけど、年賀状を手直したり、恵方を向いて書き初めしたり。
無駄なことかもしれないけど、俺は楽しかったっす。
どうでもいいことだけど、愉快でした」
俺と笹木さんは、壁に貼り付けた書き初めを見上げる。
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作者名：真 | 作成日時：2022年5月22日 15時
