ひろいもの【芹澤朋也】 (ページ19)

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寝室には暖房がなく、布団が体温で温まるまでは寒い。

「筆も墨も硯も、絶対あんな物いらないって思ってた。
でも真衣が集めてたおかげで、書き初めができたんだよな。
ついでに、方位磁石まで役立ったし」

「でしょう？
実は私には、先を見通す力があるんだよね」

「でも役に立ったのは、1年半一緒に暮らして今回が初めてだけど」

俺がそう笑うと、真衣が俺の上に乗っかっり、頬を横に引っ張る。

「何だよ」

「良い笑顔だから、形状記憶させておこうかなって」

「そんなこと、できないだろう」

「まあね。
去年はさ、笑ってなくても、それなりに幸せだったじゃん。
だけど今年は、もうちょい笑っておこう？
小吉引いちゃったし」

「〝笑う門には福来たる〟ってやつ？」

「そう。
笑っとけば、じゃんじゃん福が来るんだって」

「そしたら、笹木さんより凄い人が家に来たりするのかな」

「あり得る」

「なんかそれって、うっかり笑えないな」

俺たちはクスクス笑いながら、気持ちの良い眠りについた。

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店は3日から始まるので、真衣は今朝から出勤した。

真衣はサービス業で、俺と休みが違うことが多い。

いつもはお互い、自分が休みの日に相手が出勤しても、眠ったままでいる。

けれど今日は笹木さんがいるせいか、お正月だからか、3人で朝食を食べた。

俺と笹木さんは玄関先で真衣を見送る。

真衣は「こんな豪華なお見送りされると、俄然働いちゃいそう」と笑って、バタバタと出て行った。

俺と笹木さんは真衣が家を出た後の静けさに「なんか、やれやれですね」と笑った。

笹木さんと2人きりになるのは2回目だったので、俺はもう緊張しなかった。

笹木さんは相変わらずで、気を遣っているように見えつつ、とても自然に我が家のリビングに馴染んでいる。

今日は初詣も書き初めもなく、2人でのんびりと、炬燵でテレビを見た。

外は寒いが、部屋の中は暖かい。

窓がうっすらと曇っていた。

仕事始めで忙しく働いている真衣のことを思うと、少し気が引けたが、贅沢で良い気持ちだ。

「今日は帰りなんですね」

笹木さんは暫く画面を見てから、そう言った。