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俺が言うと、笹木さんが遠慮がちに「ただの伝統行事ですが」と言った。


「やろう、やろう!
私、書道道具ならばっちり持ってるんですよね」


真衣はそう言いながら、パジャマのまま押し入れの中をゴソゴソ探し始める。

押し入れには、真衣があちこちで集めた無用の品が詰まっていた。


「あったあった。
はい、筆と墨。
この2つは奈良に旅行した時に買ったんだよね、朋也」


そう言えばそうだ。

付き合って2年が経った記念に、京都と奈良に1泊で旅行に行った時、真衣が墨と筆を購入したのだ。

墨や筆は奈良の伝統工芸品らしく、それらを売る店が沢山あった。

習字などしないくせに「良い筆だわ」と感心し、真衣は筆を何本も買ったのだ。


「確かにこれは良い物です」


墨と筆を受け取った笹木さんは、2つを眺めてそう言う。


「あとは硯と文鎮だよね。
あったっけな」


真衣は色んな物を系統なくバラバラにしまっているから、1つずつ習字に必要な物を探し出して持ってくる。


「あった硯!
これはウチの店の店長が、中国に出張に行った時に買ってきてくれたんです。
ここに彫り物があるでしょう?
この子供の顔が私に似てるとかで。
これは多分、高級品です」


真衣が飾りがごちゃごちゃ付いた大きい硯を出してきて、笹木さんはまた「これは素晴らしい」と感動している。


「文鎮は・・・これでいいや。
この前お釣りを忘れたお客さんを追いかけた時、道で拾った石。
凄くつるつるしてて、なんだか珍しいでしょう?」


さすがに文鎮までは無かったらしい。


「凄いですね。
大人になって、書道用具を全部揃えている人がいるのですね」


笹木さんは真衣の持ち物の多さに感心した。


「大した事ないですけどね」

「しかも1つ1つに思い入れがあるなんて、さすが真衣さんです。
これは良い字が書けそうです」

「でも、半紙はないんです。
普段習字をするわけじゃないので」

「紙はカレンダーの裏でもチラシの裏でも、何でも良いでしょう」


笹木さんが墨をすっている間に、俺と真衣は顔を洗い、着替えを済ませる。

朝食はみんなバラバラに、それぞれの支度をする合間に、おせちをつまんだ。

簡単につまめるおせち料理がぴったりだ。

実家にいる時は地味なおせちは好きでなかったが、こうやって食べると、便利で美味しい。

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作者名: | 作成日時:2022年5月22日 15時

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