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腹についた検査用ゼリーを織田に拭いてもらった美佳も、不安そうに真衣に視線を送った。
「キミは妊娠していない」
「え？」
美佳は呆けた声を上げると、力無く顔を左右に振った。
「そんな筈ありません。
だって悪阻が・・・それにお腹も痛くて」
「子宮内をくまなく調べ、卵巣や卵管もチェックしたが、エコーで胎嚢は確認出来なかった。
キミは妊娠していないんだ。
中絶手術はしっかりと行われていた」
淡々と真衣は語る。
篠原はわざとらしく、大きな溜息を吐いた。
「それじゃあ、何も問題がないってことですね」
娘が妊娠していないことに安堵したのか、志津子はうって変わって明るい声で言う。
そんな志津子に、真衣は冷たい視線を投げつけた。
「問題ない訳がないだろ。
実際に悪阻や腹痛が起きてるし、弱い炎症も起こっている。
キミの娘の体は、妊婦の状態になっているんだぞ」
真衣に鋭い言葉を投げつけられ、志津子は顔を強張らせた。
「どういうことなんですか？
娘は妊娠してないんでしょ。
なのに妊婦の状態って？」
志津子は真衣から視線を外すと、篠原に尋ねる。
どうやら、真衣の態度に怯えたらしい。
「いえ、それは・・・。
美佳さんが妊娠していないことは確実なんですが」
篠原は歯切れ悪く呟いた。
「そんなの嘘！」
俯いていた美佳が、突然声を張り上げた。
「私は感じるんです。
お腹の中に赤ちゃんがいることを。
あの子は戻ってきてくれたんです、絶対に！
絶対に・・・」
篠原を睨む美佳の目に涙が浮かぶ。
篠原は反論することも出来ず、逃げるように美佳から視線を外した。
美佳の押し殺した嗚咽が響く。
それまで黙って成り行きを見守っていた織田が、ゆっくりと美佳の隣に腰掛け、その背中を撫で始めた。
「辛いわよね。
お腹の中に赤ちゃんがいると思っていたのに、その子がいないなんて言われたら」
さっきまでの女子高生のような態度とはうって変わり、落ち着いた大人の口調で、織田は言う。
美佳は歯を食い縛って頷いた。
「私もね、息子がいるの。
もう中学生になっているから、産んだのはかなり前だけどね。
そして、その前には1回流産してる。
だから妊娠した気持ちも、赤ちゃんを失う気持ちも、良く分かる」
中学生の息子ーーということは、やっぱり年齢は・・・。
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作者名：井原 | 作成日時：2023年10月5日 22時
