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鉢を買った真衣に対し、玄師は再生した土に加える肥料や腐葉土の他に、苦瓜などの夏野菜を色々買い込んだ。
結果、車の荷室スペースはだいぶ賑やかになった。
「ねえ米津さん。
帰る前に、カフェでお茶飲んで行きません？」
玄師が荷室スペースのハッチを下ろしながら振り返る。
「今から？
混んでるかもよ」
「それでも良いです。
私、喉渇いちゃって」
この園芸店は、本店の他に併設のカフェレストランがある。
駐車場からも見える入り口の看板は、玄師がリニューアル時に自分でデザインしたものだ。
折角休みの日に玄師と出掛けて、土と苗を買って直帰というのも悲し過ぎる。
お店のメニューは何度かお茶やランチで試しているが、どれもハズレ無しの鉄板なのである。
「ね、この通り」
お願いしますと手を合わせた真衣に、玄師は「仕方ない」と折れてくれた。
そうして入った店内は、確かにほぼ満席だった。
暫く待ってから窓際の席に通されるが、流れるクラシックよりも人の声の方が大きい。
「盛況ですね」
「ネットの口コミが、結構出回ってるらしい」
「あ、そうなんですか。
凄い」
「雑誌にも取り上げられたそうだし、本店帰り以外の客も来てると思う」
それは誠におめでたい話である。
立ち上げた時から関わってきた玄師としては、もっと喜んでも良いと思うのだが、顔に出さないようだ。
「・・・ま、私に言ってどうするって話か」
「大変お待たせ致しました。
ご注文承ります」
そこに、オーダーを取りに店員がやって来る。
随分声の良い人だなと顔を上げた真衣は、驚いた。
玄師も同じ顔をしている。
「ホールまで掛け持ちしてるんですか、カオルさん。
厨房大丈夫ですか」
「なんとか。
今人が足りないんですよ。
すみません」
オーダー票を片手に苦笑しているのは、このカフェレストランのシェフーー本木カオルだった。
園芸部門のシオリとは兄弟の関係で、得意分野は創作フレンチ。
しかし、外見は和風のたぬきによく似ている。
そんな彼も、今はややお疲れ気味だ。
「急にアルバイトの子が辞めてしまって」
「た、大変ですね・・・」
「本当ですよ。
何なら久里坂さん、うちでバイトする気はありませんか」
「私が？」
思いがけない申し出だ。
カオルは、意外にも本気のようだった。
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作者名：井原 | 作成日時：2023年2月28日 3時
