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それはやっぱり変だと、真衣は思うのだ。
「ーー600円のお返しです。
ありがとうございます」
そして現在は、大学の講義が終わってからのバイトタイム。
文芸書を買ったお客様に、釣り銭とレシートを渡す。
お見送りした後、レジ周りの整頓だ。
どことなく古びた棚の造りと、旧式のレジ。
カウンター近くのガラスケースに置かれた、目玉が飛び出るような価格のプレミアム書籍の数々。
取次から新刊が1つも入荷していないこの古書店は、真衣が以前勤めていた新刊書店とは、だいぶ雰囲気やテンポが違う。
コミックはそんなに取り扱ってないしね。
写真集や専門書率が高め。
店長曰く店頭の販売は売上の半分程度で、残りは通販によるものらしい。
その店長といえば、今日も趣味の碁会に出かけている。
今のところ真衣がやっていることは、店頭販売の店番と、閉店後の掃除くらい。
他の部分はほぼ手付かずだ。
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自動ドアから見える表の景色は、しとしと小雨が続いている。
関東地方も、先日ついに梅雨入りとなった。
「いらっしゃいませ」
自動ドアが開き、齢80近いご老人が入ってくる。
夏用のシャツもスラックスも、きちんとアイロンをかけていた。
傘立てに入れた傘は、ビニール傘ではなく黒の蝙蝠傘だ。
この天気では足下の具合もあまり良くないだろうに、革靴の足取りはしっかりしている。
「羊羹の本が入ったと聞いたんだが」
ーー羊羹。
この紳士な感じのお爺ちゃんが、和菓子の本をお求めだ。
甘党なの？
様々な憶測が脳内を飛び交ったが、顔に出さない程度の経験はあった。
「お取り置きの本でございますか？
失礼ですが、お名前を窺っても宜しいでしょうか」
「ああ？
そんなもん、どうでもいいから早く見せてくれ！
用意ができたというから、わざわざ来たんだ！！」
その細い体のどこから出るという剣幕で怒鳴られる。
真衣は「し、少々お待ち下さい」と言うのが精一杯で、慌ててレジ裏の棚に取り付いだ。
前のバイト先のようにシステマティックではないが、予約や取り置きのような本なら、棚にメモと一緒に置いてある筈だ。
だがーー探してもない。
和菓子の本がない。
料理のムック本すらない。
「あの、失礼ですが本のタイ「ごちゃごちゃ言っとらんで早くせい！」」
また雷が落ちた。
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作者名：井原 | 作成日時：2023年2月28日 3時
