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「捕獲」
「な、何するんですか！」
「眠いから、真衣も寝ときな。
布団にいる時は寝るもんだ」
「意味分からないですよ」
「俺は2時間しか寝てない・・・」
今の真衣は、まるで抱き枕だ。
どこまでも無造作に、けれど意外と強い拘束力で、真衣は玄師に捕らわれる。
「・・・仕事してたんですか？」
この距離で玄師の顔を窺うのは、別に初めてではない。
それでも眼鏡無しの素顔は、端正過ぎて落ち着かない。
「だいたいさあ・・・真衣がいけないんだよ・・・隙だらけでフラフラちょろちょろ」
「ちょろちょろって・・・というか米津さん、臭！
臭過ぎ！
何でこんなにお酒臭いんですか」
至近距離だと、わざと嗅ごうと意識しなくても、アルコール臭が凄い。
汗や体臭というより、酒臭い。
何だコレは。
「仕事仲間と飲んでて・・・始発で・・・戻って」
「ああもうヤダ！
ほんとに酔っ払いじゃないですか！
離して下さい」
仕事なんて心配して損した。
突発的に沸いた甘い感情も綺麗サッパリ吹き飛んで、真衣は本気で玄師の拘束から逃れようとする。
ジタバタと暴れる中で押した手が、丁度玄師の顎に掌底のようにヒットしたらしく、その隙にベッドから出た。
「そこまでする・・・？」
「知らないですよ。
変なことする米津さんがいけないんです」
「分かった分かった、俺が悪かった。
だから逃げないで」
呻く玄師に言われた真衣は、乱れた髪を押さえながら振り返った。
「じゃあ、蜜柑の虫取ってくれますか」
「カブトムシでもミンミン蝉でも取るよ」
・
・
・
公約通り真衣の部屋の虫を退治してもらい、玄師と一緒に、玄師側の部屋に戻る。
「真衣が作るんだ」
真衣がキッチンを借りて朝食の準備をしていると、風呂場でシャワーを浴びた玄師が顔を出す。
「何作ってるの」
「無難に失敗しなそうな物を・・・」
頭からタオルを被った玄師は、髭も剃って顔色も良い。
真衣は半分に切った厚切り食パンの内側に切れ目を入れ、できたポケットの中に、ハムとスライスチーズを突っ込む。
「サンドイッチ？」
「いえ。
それだと飽きがくるんで、今日はフレンチトーストにしようかと」
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作者名：井原 | 作成日時：2023年2月28日 3時
