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どこか気怠げな口調でノンアルコールカクテルを飲んでいるのは、徳長亜沙美。
こちらは玄師より1年先輩の、女性デザイナーだ。
一緒のチームで仕事をしていた頃は、激務になればなる程メイクが濃くなっていた彼女。
しかし今は黒髪に戻り、禁煙にも挑戦しているらしい。
腹に5ヶ月の子がいれば、無理もできないということだろう。
「1番大変な時期に結婚して、トンズラこいた私が言うことじゃないけどさ」
「いや、良い判断でしたよ」
玄師は、心から思って言った。
「マルコの方はどうや。
転職先で、ちっとは養生できとるんか」
「んー・・・まあまあ、かなあ」
勇が向けた質問に、ボブスタイルの首を傾げたのは、円井真里だ。
こちらは『マルコ』という渾名通り、一見して小学生に間違えられそうな童顔かつアニメ声。
しかし年は玄師と同じアラサーだ。
「企業内のデザイナーっていうより、デザインソフト使える事務員って感じだよ。
フォトショやインデザインより、エクセル触ってる時間のが多いくらい」
「でも正社員で、残業少ないんでしょ。
その方が良いよ」
真里は梅酒のロックを手に苦笑する。
「私も腹の子出したら、在宅で仕事請けるかー」
「でも・・・正直意外だよ。
玄師くんも辞めちゃうなんて」
ふいに真里に、名前を呼ばれた。
「私みたいな根性無しとか、跳ねっ返りの勇は兎も角さ。
玄師くんも事務所から離れちゃうとは思わなかった」
「俺は兎も角ってなんや」
「玄師くんは何だかんだ言って、先崎さんのあと引き継ぐんだと思ってたから。
それができる人なんだと思ってたし」
ーー先崎。
玄師はサラリと登場したその単語に、どうしても反応してしまう。
アートディレクターの先崎。
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玄師の元上司だ。
夢に見て魘される程の罵詈雑言に彩られた日々は、先崎のリタイアによって、呆気なく幕切れとなった。
「それは・・・俺に死ねって言いたいの？」
「べ、別にそういう訳じゃ」
「それともあの人みたいに、マルコの目の前でラフ案破いてみようか」
「ちょっと玄師」
慌てふためく真里を案じ、亜沙美が咎めに入る。
玄師は皮肉っぽく笑った。
「冗談です。
大体あの人、まだ死んだわけじゃないでしょう。
相当しぶといから」
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作者名：井原 | 作成日時：2023年2月28日 3時
