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「花が付く前は、余計にね。
実が成ってから間違えたら悲劇だけど」
「確かに」
カレーに間違えてシシトウを入れるなら、まだ可愛げがある。
しかし、シシトウと間違えて青唐辛子の炒め物なんて作ってしまった日には、口が焼けるだろう。
「ま、とりあえずどっちも今日は使わない。
出番はもう少し先だ」
「そうですね。
今日はいつもと違うカレーを作るんですよね。
ほうれん草の」
立ち上がる玄師の手には、プランターから収穫したばかりの青々としたほうれん草が握られている。
そのまま真衣たちは、ベランダからキッチンへ移動した。
「さてと。
まずはほうれん草を洗って、食べやすい大きさに切る」
「適当で良いんですね？」
「うん」
真衣がザルのほうれん草を洗う一方で、玄師は冷蔵庫からぶつ切りの鶏もも肉を取り出し、ボウルに開けた。
「下味は塩、胡椒、カレー粉、チューブ生姜。
これらを塗したら、ひとまず放置」
「米津さん、ほうれん草切り終わりました」
「じゃ、次は玉葱とニンニクを刻んで」
「ラジャー」
ザルに入ったカット済みほうれん草を奪われたと思ったら、今度は玉葱とニンニクをまな板に置かれた。
真衣は再び刻みマシーンと化す。
黙々と包丁を動かしていたら、隣で歯医者の治療のような轟音が響きだし、危うく手を切るところだった。
「な、何ですかいきなり」
「何って、ミキサー」
それは、見れば分かる。
玄師は流しの下から出したミキサーで、怪しい緑色の液体を製作した。
「真衣が切ったほうれん草と水を入れて、混ぜたんだ」
「カレー作るんですよね？」
「カレーを作るよ」
分からない。
我々は一体何を作ろうとしているのか。
「ニンニクと玉葱は刻めた。
なら、油を入れて炒めよう」
玄師は鍋に油を引き、真衣が刻んだやや不恰好な玉葱とニンニクを炒め始める。
ミキサーで製作した緑色のブツを凝視するが、何度見ても掃除する前のプールか、苔の生えた沼にしか見えない。
「玉葱が炒まったら、ボウルの鶏肉と、裂いたシメジを突っ込んでまた炒める」
ターメリック色に染まった鶏肉を投入。
炒めて軽く焦げ色がついたら、玄師はさらに冷蔵庫から取り出したシメジを割り入れ、カレー粉をひと振り。
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作者名：井原 | 作成日時：2023年2月28日 3時
