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絶望的な目をしている真衣たちを見て、彼は皮肉気に口の端を吊り上げる。
「着物で出迎えるとでも思ったかね。
夢を壊して失礼」
そうじゃない。
この部屋全体がおかしいのだ。
思わず罵りの言葉が出そうになる。
「あ、あの。
牧野教授」
「なんだね」
「最初は水回りの掃除から始めた方が良いですか」
何をおいても、キッチンだ。
あのシンクの弁当容器を片付けるだけで、大分違う気がする。
ところが教授は「は？」と聞き返してきた。
「何故そんな家政婦のような真似を？
私が頼んだのは、蔵書の整理だ。
他の場所に手を付けてくれなんて、頼んだ覚えはない」
今度は真衣が、目を丸くする番だ。
「まったく・・・今の女学生は、なまじ恵まれているから、理解できないのかね。
自分を守りたいなら、そういう気遣いは発揮しない方が良い」
気遣いというか・・・老若男女誰を放り込んだところで、あの弁当箱を片付けたい気持ちは一緒の筈だ。
なのに、片付けるなというのか。
そんなご無体な。
「ただ私、綺麗な方が気持ち良いかなと思っただけで・・・」
「さ、早くついて来たまえ。
場所は書庫と書斎の2つある。
2日あるから、順に手を付けてもらおう」
聞く耳持たずの教授は、ベタベタ張り付いてくる床を踏んで歩き出す。
「・・・真衣。
私、帰って良い？」
「駄目。
気をしっかり持って、美菜都ちゃん」
「マジ無理・・・汚部屋は無理」
真衣は美菜都の手を握る。
ここで帰ってしまったら、2日分の日給はどうなる。
今月の赤字の補填は、どうなるのだ。
私だけを置いていかないで、お願い。
教授が、ふと思いついたように振り返る。
「昼食は、店屋物で良いかね？」
真衣たちは、ピタリと揃えて笑顔で答えた。
「お気遣いなく。
外で食べてきます」
「この辺りに食べる場所、あまり無いぞ」
「大丈夫です食べてきます」
せめて、それだけは。
それだけはーー。
・
・
牧野教授ご自慢の蔵書は、4部屋あるうちの2つを潰して収納してあった。
ゴミの持ち込みが無いため匂いはマシだったが、天井まである本棚からはみ出た蔵書が床の半分を埋めている。
これを1から整理するとなると、かなり骨が折れそうだ。
「棚の物も1度出して、棚板を拭いてから順に並べ直してくれ」
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作者名：井原 | 作成日時：2023年2月28日 3時
