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大教室の壇上で、ぼそぼそとマイクに向かって喋っていたのは覚えている。
書く文字が達筆過ぎて、板書を写すのに苦労したが、ちゃんと単位は��A�瓩鬚�れた。
充分だ。
バイトの日取りは、今週末の2日間に決定した。
そして当日の朝。
美菜都と一緒に、教授のお宅の最寄駅までやってきた。
「ありがとう、美菜都ちゃん。
これで今月の赤字分は補填できそうだよ」
「なんのなんの。
私も連休で遊び過ぎたのは一緒だから。
頑張って稼ぐさー」
首都高の高架を背にし、細い急坂が路地の向こうへ伸びている。
帽子か日傘が欲しいくらいに、日差しは強い。
「てか、秀のヤツがさ・・・」
急に美菜都は、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「古沼くんがどうかしたの？」
「アイツに今日やる蔵書整理のこと話したら『大丈夫か』って言い出すんだよ。
そんな良い条件なのに、人が集まらないのはおかしいって」
「えー」
「普段は適当なスカポンタンのくせに、何でこんな時だけ重箱の隅突くのかな。
テンション下がるさー」
古沼秀は、美菜都と同じ映研サークルに入っている、美菜都の彼氏。
学部は違うが、明るく喋るのが好きな性格は、真衣も良く知っている。
「それはほら、やっぱり法学部だと、色々細かいところが気になるんじゃないの」
「何それ。
じゃあ私ら文学部はどうなの」
「ロマンを重んじるんじゃないかな」
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真衣たちは揃って目の前の坂を上り始める。
「現なま、先立つ物、諭吉さん。
お金の表現って色々あるよね。
そういえば、近いうちに栄一さんになるのか」
「あとは、金色の最中とかね」
「それ賄賂」
牧野教授のお宅は老舗高級ホテルに程近い、坂の途中の低層マンションだ。
築年数こそかなり経っていそうだが、世帯数に対して余裕がある作りらしい。
1階エントランスで目に付くメールボックスの数は、予想より遥かに少なかった。
美菜都がスマホのメール文を確かめながら、オートロックの呼び出しパネルを操作する。
「どこの階に住んでるんだっけ？」
「5階。
最上階みたい」
件の部屋を呼び出すと『どうぞ』と男性の低い声がして、エントランスのドアが開く。
今のが牧野教授？
本人だろうか。
講義の時の声を思い出そうとするが、あまり印象に残っていない。
「私さ、教授と名の付く人のお宅にお邪魔するって初めて」
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作者名：井原 | 作成日時：2023年2月28日 3時
