13 ページ13
「どっかで買い物してきたの？」
段ボールの陰に隠れるようにして、雇い主の店長が雑誌を読んで休憩していた。
齢50前後のおじ様は、真衣の散々の跡を見ても、特に表情を変えない。
基本的に動じない感じの人なのだ。
「あっ、はい。
ちょっと仕事終わるまで、ここに置かせてもらえますか。
買い物先から直で来ちゃって」
「いいよ、別に。
邪魔にならないようにしてくれるなら」
それだけを言って、また手元の雑誌を捲る。
真衣は言われた通り、ロッカーの中に入る分だけの荷物を詰めると、余った荷物を端の方に置かせてもらった。
続けて店のエプロンを着けていたら、店長が雑誌を捲る手を止めずに言う。
「久里坂さん。
来月の予定はどんな感じ？」
「え、来月ですか？
もしかしてシフトの件でしたら、もうガッツリ組んで下さい」
何と言っても、稼がないといけない。
労働万歳。
そんな気分だ。
しかし、店長の続きの言葉は無情だった。
「うちね、今月いっぱいで閉店するの」
真衣のエプロンを蝶々結びにする手が止まる。
「ほら。
不況とか、タイミングとか色々あるんだけどね。
田舎の親も色々心配だし。
僕も良い機会だから、心機一転とかそういう時期だと思うんだ」
時期とかそういうのは、別に良いのです。
それよりーー。
「じゃあ、つまり・・・」
「今月いっぱいだけど、宜しくね」
来月は無職ってことですか！
出版不況の馬鹿野郎。
もしくは、店長の親孝行ぶりを呪うべきか。
いいや、そんなことをしても、どうにもならない。
呆然としながら遅番勤務を終え、マンションの自室に帰る。
真衣は引き続き呆然としながら、ソファーの上に荷物を置いた。
荷物の大半は、昼間のバーゲンの散財品たるショッピングバッグの数々だ。
ローテーブルの上に、下のメールボックスに入っていた通販の払込書を置く。
支払いは今月中だろう。
「ああああ」
怪獣のように吠えたい。
シフトを増やすどころか、来月から無職。
一応学生という身分はあるが、この生活はバイトで定期収入を得ないと成り立たないのだ。
無心でスマホを操作する。
『何』
「米津さーん。
私、無職になりましたー」
電話に出た玄師に心情を吐露したら、彼は盛大に噴き出した。
相当苦しそうに咳き込んでいるので、さすがに罪悪感も湧いてくる。
「もしかして、ご飯中でしたか？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 7人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：井原 | 作成日時：2023年2月28日 3時
