8 ページ8
ジャンパーを脱いで返そうとすると、玄師は首を振った。
「それはもう、俺には要らない物だから」
助手席に座った私に、玄師は更に毛布を掛け、車のキーを渡す。
「30分経ったら、お店の人に事情を話して。
あとは大人が何とかしてくれる。
寒いからって、勝手にエンジンかけちゃ駄目だよ」
玄師はもう1度、毛布が私の首までちゃんと覆っているか確認し「じゃあね」と言って、助手席のドアを閉める。
玄師が駐車場を出て、道路を走ってきたタクシーに乗り込むまで、私は体を捻って見守った。
何処へ行くのか、聞かなかった。
�猜垢�ないでくれ�瓩噺嫉佞�願っているのが、伝わってきたから。
ーーそれからは大騒ぎになった。
警察が駆けつけ、両親が迎えに来た。
母は私を見るなり抱きしめて大声で泣き、ついでに私の頭を引っ叩く。
「なんて子なの、アンタはもう」
誰に何を聞かれても、私は「分からない」と答えた。
「男だった」という事だけ話した。
母からも女性警察官からも、痛いところはないか、変なことはされなかったか聞かれた。
質問の意図が、当時は掴めなかった。
�犖嫉佞�んは変じゃない�瓩般堊海隼廚辰燭海箸世院△茲�覚えている。
ジャンパーは警察が証拠品として押収したきり、戻ってこなかった。
私に残されたのは記憶だけだ。
でも、周囲の大人は皆んな事件に触れないようにしていたから、それもだんだん薄れていった。
・
・
玄師は捕まることはなかったが、それは多分、誰にも捕まえられない場所に玄師が行ったからだと思う。
どう考えても真っ当ではない用件で、玄師は大阪に向かっていた。
だが玄師は、小学生の女の子に暴力を振るうような男ではなかった。
それどころか、ちゃんと私の話を聞き、色々教えてくれた。
私は運が良かったのだ。
学校の図書館で、私は図鑑を調べた。
ウサギ座は玄師が言った通りの場所に、言った通りの形で存在していた。
じゃあ、玄師が話した夢の話も本当なんだーーと、その時確信した。
血の色の花が咲く、広い野原。
その夢は、玄師を苦しめていたのだ。
両親は車のキーを厳重に保管した。
私が勝手に乗り込めないように。
だから私は、週末に家族でスーパーに買い出しに行く時だけ、後部座席で想像した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：井原 | 作成日時：2023年2月18日 8時
