冬の日 (ページ7)

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「どうして最低な夢なの」

「花が血の色をしているから」

低い呟きにびっくりして、隣に座る玄師を見る。

玄師は私の方を向いて視線を合わせ、目だけで笑った。

「コンビニに行きたくて走ってるんだよ。
なのに、血の花が棘しく咲く野原は、なかなか終わらない」

玄師は立ち上がり、毛布で私をぐるぐる巻きにする。

彼はセーターだけなのに身を竦めることもなく、駐車場を照らす常夜灯から遠ざかり、夜空を見上げた。

「ほら、随分星が見える」

毛布の蓑虫みたいな格好で、私もベンチを下りて玄師の側に行った。

山の上の空は、街明かりからも高速道路の光の帯からも隔絶されて、穴のようにただ真っ暗だ。

だが玄師に倣い黙って目を凝らすと、そこに小さな銀の粒が無数に散らばっているのが見えてくる。

「ほんとだ、凄い」

私は歓声を上げる。

母に叱られないよう、夜は早くに寝てしまうし、空気の綺麗な所へ旅行するようなことも無かった。

だから私は沢山の星など、見たことがなかったのだ。

「どんな星座でも見つかりそうだ。
・・・好きな動物は？」

「ウサギ」と私が答えると「いるよ、ほら」と玄師が空へ腕を伸ばした。

『ほら』と言われても、どれだか分からない程に星はある。

玄師は腰を屈め、私と顔の位置を同じにし、丁寧に説明してくれた。

「オリオン座は知ってる？」

「知らない」

「じゃ、この指の先辺りを見て。
3つ並んだ星があるでしょ」

「うん」

「そっからずーっと下りて、4つ星があるのは分かる？」

「こんな形で並んでる？」

私は玄師の手を取り、掌に台形を描く。

「そう。
それがウサギ座」

「本当に？」

「本当。
星占いで有名なヤツだけじゃなく、いっぱい星座はある」

「ペンギン座も、スフィンクス座も？」

「なければ作れば良い」

玄師がくしゃみをしたので、車に戻る。

ウサギ座なんて、玄師がでっち上げた星座じゃないかと思った。

でも同じ星を見ていた事は確かだから、私はそれで満足したのだ。

玄師とは、高速を下りて少し走った所にあるファミレスで別れた。

朝の4時半で、表はまだ暗い。

私はファミレスでスパゲッティを食べ、玄師は向かいに座ってそれを眺めていた。

朝食を終えると、ファミレスの駐車場に停めた車に、私だけが乗る。