冬の日 (ページ6)

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「うーん」と玄師は唸り、また肩を揺らす。

笑われても、私はもう悲しい気持ちにならなかった。

玄師が私の話をちゃんと聞いてくれているのが分かったからだ。

「それから、夢の話をしてもママは嫌がる」

「夜に見る夢のこと？」

「うん」

「話してみてよ」

「冷蔵庫を開けて、牛乳を飲むの。
何度飲んでも全然減らなくて、最後はお腹いっぱいで苦しくなる」

「何でキミの母親は嫌がるの？」

「ママは牛乳が嫌いだから」

玄師は重々しく頷いた。

「思うんだけどね、真衣ちゃん。
キミは別に変わってないよ」

「でもさっき、変わってるって・・・」

「確かに警戒心が無くて、ボーッとしてるけど」と言いかけた玄師は、私が顔を歪めたのを目の端で捉えたらしい。

急いで付け足した。

「いや、俺は良いと思うよ。
そういうのも」

「何それ、変なの」

私が言うと「そうそう。キミも俺も、変なのは一緒」と玄師は請け合った。

泣いたせいか急に眠くなり、私は暫く意識を手放した。

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目を開けると車は停まっていて、車内のデジタル時計は午前2時28分を知らせていた。

私が身じろぐと、運転席に座っていた玄師が「トイレは大丈夫？」と声を掛けてくる。

玄師はそれまでずっと、前方に広がる暗闇を見つめていたようだ。

車はサービスエリアの駐車場の端にあり、その先は柵1つを隔てた山の斜面である。

下界の一角にある一際明るい街を、玄師はフロントガラス越しに指差し「大阪だよ」と言った。

何だか玄師を引き止めるべきであるような気がして、時間を稼ぐつもりで「外へ出たい」と言う。

後部座席から取ってきた毛布に2人で包まり、私たちは斜面に背中を向けてベンチに座った。

「牛乳の夢を見た？」と玄師が聞く。

吐く息が白かった。

「何にも見なかった」

「残念だね」

少し躊躇ってから「玄師くんは？」と尋ねる。

「何か夢を見た？」

「寝てないから、見れないね」

玄師は手の甲で目元を擦った。

「見てもどうせ、最低な夢ばっかりだし」

「どんな？」

毛布の中に手を戻し、玄師は言葉を探しているようだった。

「野原を走ってる。
小さな花がいっぱい咲いてて、兎に角だだっ広い」