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控えめに不満を述べると、玄師は洗われた灰皿を元に戻しながら「臭いだけだよ」と眉間に皺を寄せる。
車は再び走り出し、私たちは買ったパンを食べ、お茶を飲んだ。
「大阪に何しに行くの？」
「仕事だよ」
「どんな仕事？」
「キミ、ちょっと変わってるね。
普通は家に帰りたいって泣いたり、さっきのサービスエリアで逃げ出したりするもんじゃないかな」
『変わってる』という言葉に、私は激しく衝撃を受けた。
そこで初めて泣きそうになった程だ。
「ママも、よくそう言う」
「そうって？」
「私のこと『変わってる』って」
小学校に入った年に、妹ができた。
丁度父も仕事が忙しく、母は育児疲れで苛立っていたのだろう。
私は母に怒られることが多くなった。
母には�犲�業中はぼんやりしています�瓩板命�簿に書かれる私が理解出来なかったし、私には、母が急に怒鳴る理由が分からなかった。
2歳になる妹は、週に何日か、近くに住む祖母が預かって面倒を見ていた。
私がスーパーの駐車場から車ごと玄師に攫われたのは、そういう時だったのだ。
「やっぱり。
母親が言うぐらい、キミは変わってるんだ」
玄師に笑われ、私はますます泣きたくなる。
俯いて唇を噛んだ私を見て、玄師はびっくりしたみたいだった。
「何で泣くの」
上手く説明出来ずきいると、玄師はガムを私の膝の上に乗せたり「もう1個パン食べる？」と聞いたりした。
それでも黙っていたら、玄師は遠慮がちに手を伸ばして、私の頭をそっと撫でる。
とても優しい感触だったから、瞼が熱くなって、涙が溢れてしまった。
「どういうところが変わってるって？」
「授業中にボーッとしてるとこ」
「そりゃ普通だと思うけど。
俺もボーッとしてるか寝てるか、どっちかだった」
私は着たままだったジャンバーの袖口で、涙を拭いた。
「あと私、車に乗るのが好きなの」
「俺も、運転は結構好きだよ」
「私は運転出来ないもん。
後ろの席に座って、行きたい所を考えるのが楽しい」
「どんな所に行きたい」
「テレビで見た所。
南極とか、ピラミッドとか。
でもママは『そんなことばかり考えるのはやめなさい』って言う」
「車では南極にもエジプトにも行けないからな」
「南極に着いたら、ちゃんと犬ぞりになるんだよ」
「車が犬ぞりに？」
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作者名：井原 | 作成日時：2023年2月18日 8時
