冬の日 (ページ1)

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偶に、車の後部座席で眠る。

夏は窓を開けたままにするので蚊に刺されるし、冬は毛布に包まっても、爪先が凍えて目が覚める。

寝返りも打てない狭いシートで身を縮めていると、浅い眠りのせいか、よく夢を見る。

真っ暗に断ち切られた睡眠に比べれば、たとえ悍ましい内容であっても、夢を見れるだけ得だ。

この前は、王様の道化が死ぬ夢だった。

野原での短く激しい戦闘を終え、緑の丘に張られた天幕に戻ると「余の道化は何処じゃ」と王様は騒ぐ。

道化は宮廷の嫌われ者だ。

王様を揶揄う卑屈な態度は隠し切れず、あちこちで陰口を盗み聞きしては言いふらす。

上手く保身を図る醜い道化だ。

戦に気を取られる王様の隙を突いて、逃げ出したに違いない。

皆んなそう思っているのか、誰も動こうとしない。

野原には死体が沢山転がっているし、道化は大人の腰ぐらいまでしか背丈がないのだ。

見つけ出すのは難しい。

王様の癇癪が鎮まることを願っていると、3人の兵士が、道化を連れて丘を登ってきた。

正確に言うと、道化らしき物体を抱えて。

それが道化だと分かったのは、子供のような背丈と、身につけていた赤と金の衣装のおかげだった。

道化の頭は馬に踏まれたらしく、右半分が潰れていたし、右腕は肘から下が千切れて失くなっていた。

泥まみれの道化の死体が、草の上に置かれた。

見開かれた道化の目は腐った卵白のように濁り、早くも蝿が集り始めている。

王様はあれほど騒いでいたのに、道化の姿を見た途端、何も言わずに首をひと振りし、天幕の奥に入ってしまった。

私は道化の死体から目が話せない。

千切れた腕の内部に、黄色い粒々がびっしりと詰まっていたからだ。

オレンジの果肉みたいーーと思った。

急に喉の渇きを覚え、周りにいる者が注意を払っていないのを確認してから、そっと道化の腕を取る。

道化の皮膚はひんやりと硬く、貪りついた傷口からは、確かにオレンジの味と香りがした。

思う存分、果汁だか体液だか知れぬものを啜り飲んで顔を上げると、道化がじっと私を見ていた。

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目を覚ますと、車外には既に朝が訪れていた。

慌てて身を起こして車から飛び出し、マンションの部屋へ帰って出勤の支度をした。

寝乱れた髪で化粧もしていない女が駐車場から走り出るのを見て、何事かと思った人もいたかもしれない。