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彼女が最期に何を思っていたのかを。
どろぼう猫の呪いなんてものが本当にあったのか、鶴丸にも分からない。
ただ奇妙な猫を追いかけて写真館に辿り着いたことは、紛れもない事実だ。
紗代子はもう、苦しんでなどいなかった。
救いを見出せないまま最期を迎えたのではなかった。
光と温もりに満ちた絵を見た時、鶴丸にもそれが分かった。
老人に向けたという笑顔も、鶴丸と一緒に見に来るという約束も、もう還らない。
しかしその事実を知るだけで、全身を固く縛る何が解き放たれた気がした。
背にかかる真衣の重みと、どこまでも平和な寝息を受け止めながら、鶴丸はそんなことを思う。
足が止まったのは、アスファルトの地面にチラリと影が過ったからだ。
鳥かと思って顔を上げると、屋根の上から黒猫が顔を覗かせて、こちらを見ていた。
眩しい光の下で見ると、黒い毛並みはますます艶やかで、ラピズラズリに似た青い目の色もハッキリ分かる。
簡単に人が手出しできない高みから、猫は悠然と鶴丸を見下ろしていた。
まるで長年の宿敵のように見つめ合っていると、ふいっと猫は頭を引っ込め、姿を消す。
反射的に追いかけようとした鶴丸だったが、真衣を背負ったままと気付き、その場に踏み留まった。
何の見返りもなく限界まで眠りを断ち、鶴丸をあの場所にーー紗代子の絵の所へ導いたのは、他ならぬ真衣だ。
絶対に、置いて行くわけにはいかない。
鶴丸は屋根の上から視線を戻し、踵を返す。
黒猫のことは不思議な程、もう気にならなくなっていた。
それぞれの家のカーテンや窓が開き、玄関のドアや門扉から、ちらほらと人が吐き出されてくる。
まだ涼しさの残る朝の空気の中、動き出した街を眺め、鶴丸は再び歩き出した。
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作者名：真 | 作成日時：2023年2月1日 21時
