眠れぬ夜のセレナーデ〜3〜 (ページ31)

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「うちにあります。
あれから暫くして、お預けしていた写真と一緒に持ってきて下さったんです」

「見せていただくことは・・・」

隣に座っていた真衣は、鶴丸の指先が僅かに震えている事に気づいた。

「今お持ちします」

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部屋の奥、ビロードのカーテンが下りた壁際に、老人の手でその絵が掛けられた。

素朴なタッチと明るい色使いが優しい絵だった。

光に溢れた庭に、中年の夫人が猫を抱いて立っている。

こちらに向けられた笑顔は声が聞こえてきそうな程生き生きとして、猫の表情も愛くるしい。

使い込んだエプロンが日差しを弾く様や、水撒きの途中で置かれたブリキのじょうろ。

人にも物にも、限りない愛情を感じる絵だ。

「良い絵だね・・・」

芸術のことなんて碌に分からない真衣だが、気付くとそんな言葉が漏れていた。

「写真のお礼くらいで、こんな素晴らしい笑顔を貰っては申し訳ないく思ったんです。
でも『記念だから受け取って下さい」と」

放心したように絵を見入っていた鶴丸は、我に返ったように老人を見る。

「人物を描くのはあまり得意じゃなかったけど、話を聞いて奥様の姿を思い浮かべたら、やっと満足のいく物が描けたーーと。
恋人に随分心配かけたから、これを見せて驚かせたいんだと仰って。
今度一緒に見に来るから、それまで私の撮った写真を預かってほしいと言って、帰っていかれたんですよ」

しかし、それきり紗代子が店を訪れることはなかった。

「てっきり、すぐまたいらっしゃるんだと思って、連絡先も聞かず終いでした。
私が知っていたのは〝紗代子〟さんというお名前と、美大生という事だけだったもので。
絵のことは誰にもお伝えすることが出来ず。
ですが・・・そうですか、事故に」

老人は言葉を切って、目を伏せる。

紗代子が亡くなった事を知ると衝撃を受けたようだったが、どこか腑に落ちたような顔もしていた。

「あのお嬢さんが顔を見せなくなって、一時期ウィンドウに飾ってあった写真もしまったのです。
しかし最近、また青い目の黒猫がこの辺りに現れるようになりましてね。
なんだかお嬢さんのことを思い出して、飾り始めたところだったんですよ」

鶴丸が此処を見つけたのも何かの巡り合わせだろうと老人は言って、視線を向ける。