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言葉を切ってから、港川は真衣を見た。
「正直、真衣さんが国永のためにここまでして下さるとは思いませんでした」
ひと気の無い道を歩きながら、真衣は首を傾げる。
眠りを断つことを決めたのは、先日の鶴丸の話がきっかけなのは確かだ。
しかし純粋に鶴丸を思っての行動なのか、真衣自身にもよく分からなかった。
「好きなんですか？
国永のこと」
問う声は、夜の空気に紛れるように密やかだ。
「どうだろう。
鶴丸さん、私のこと女扱いしてないし。
・・・どっちかっていうと、今は�狠膣岫瓩辰憧兇犬�な。
眠れない長い夜を楽しく過ごす、夜更かしの仲間・・・かな」
もし真衣が鶴丸のことを好きになったとしても、今の鶴丸は、決して真衣を見ることはないだろう。
もう1度彼の時間が動き出すまでは、夜更かし仲間で良い。
真衣が彼を好きになるのは、きっとその後だ。
1時間程住宅街を歩き回り、公園や神社など猫がいそうな場所を巡ったが、どろぼう猫を見つけることは出来なかった。
もう少し探したかったが、港川はあまり無理をさせたくないらしく、彼の提案でマンションに帰宅することになった。
「これで見つからなかったということは、断眠してもどろぼう猫を捕まえるのは不可能ということです。
真衣さんはどうか家でゆっくり休んで下さい。
いいですね？」
帰り際、港川にはしつこく念を押されたが、真衣はそのまま2階に向かった。
オーナーの茂之が淹れる、破壊力抜群の珈琲をもう1杯飲むためだ。
・
・
断眠4日目になると、過酷さは更に増した。
限られた睡眠時間でも事足りる自分なら、眠りを断ったところで然程影響は無いとたかを括っていた。
しかし、どうやら甘かったらしい。
体の怠さは極限に達しており、ほんの少し歩く動作にも、全身の力を要するようになっていた。
気怠く重く、思考にも薄い靄がかかって、それが次第に濃い霧へと変わっていく。
「無眠者でもない人間が眠りを断ち続けるのは、最長でも10日前後が限度と聞いています。
普通の人間なら、健康な大人の男でも3日から5日が限界でしょう。
実験の記録を見ても、3日目以降になると、自力で目を覚まし続けることは難しいようです。
それでも眠らずにいれば鬱状態に陥ったり、幻覚や錯乱を起こすこともある。
本当に危険なんです」
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作者名：真 | 作成日時：2023年2月1日 21時
