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鶴丸の部屋で紗代子の最期にまつわる話を聞いたのは、3日前のことだ。
どことなく真衣と鶴丸の間に距離ができた事に気づいているのか否か、茂之の態度からは全く読み取れない。
ーー鶴丸が眠らないのは、潜在意識の深いところで眠りを拒んでいるからだ。
こう言ったのは港川だ。
紗代子がいなくなった事に気付かずに眠っていた自分を、今もきっと、鶴丸は許すことができていないのだろう。
「鶴丸さん『眠れないのは当然の報いだ』って言ってた」
ふうっと大きく煙を吐き出すと、茂之は少しの間、黙り込んでから話し始めた。
「事故のあった日な。
兄さんが真っ青になって俺んとこ訪ねてきて『紗代子がこっちに来てないか』って聞くのよ。
俺も泡食って、2人して探しに出て、暫くして紗代子を見つけてな。
・・・救急車が着く前には、紗代子はもう動かなかった」
水の中で息を吐き出すように、茂之はひと息に告げると灰皿に灰を落とす。
「紗代子がいなくなってから、俺も空っぽになっちまってよ。
店も閉めたまんまだったんだが、潰しちまうのも惜しくてな。
兄さんに、ここで店やらねえかって言ったのよ。
眠らなくなったのは知ってたし。
どうせ夜通し起きてんなら、同じように眠れねぇ客の相手でもしてる方が、気が紛れるかもと思ってな」
スピーカーからは、掠れた音色が流れてくる。
茂之はぐるりと店内を見回した。
我が子を眺めるような目をしていた。
「兄さんが店始めて、客がぼちぼち入るようになって、嬉しいには嬉しいんだ。
けど、紗代子がいないのが時々どうにもやりきれなくてな。
ここに居るのが堪らなくなって、放り出しちまった」
自嘲すると、茂之は短くなった煙草を灰皿に押し付けた。
「兄さんが紗代子に最期まで付き添ってくれたのは、ありがたく思ってるんだ。
でもその兄さんがあんな風に歪んじまったの、俺は見てられなかった。
結局、敬浩に全部押し付けて、日本からトンズラこいたんだ。
薄情な親父だよ」
息の根でも止めるみたいに、火が消えた後もぐいぐいと煙草を押し付け、茂之は顔を顰めた。
「紗代子が死んだ時の黒猫が、どろぼう猫かどうか、俺には分からねえ。
兄さんが猫を探しているのは知ってたが、そんなもん見つけてどうにかなるとは思えねえ。
それで紗代子が戻ってくるわけでもないしよ。
・・・ただ、このままじゃ、あんまりじゃねえかって最近思う」
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作者名：真 | 作成日時：2023年2月1日 21時
