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名案だと思ったのだが、鶴丸の反応はにべもなかった。
「キミがそんな真似をする必要はない」
「どうして？
私なら適任じゃない。
元々そんな寝る方じゃないから、起きてるのも苦にならないし。
鶴丸さんにリスクはないんだし」
「俺には無くてもキミにはあるだろ。
ただでさえ睡眠時間が少ないのに、断眠なんかして体でも壊したらどうする。
俺だって、キミにそこまでさせて捕まえようとは思っていない」
珈琲の入ったマグをカウンターに置き、鶴丸は言う。
「でも、あの猫は紗代子さんの仇みたいなものなんでしょう？
それに、もし本当にどろぼう猫だとしたら、ひょっとすると鶴丸さんだって眠れるようになるかもしれないのに」
最近また、この辺りでもどろぼう猫が目撃されているという。
今度こそどろぼう猫を捕まえられるかもしれないのに、鶴丸が消極的になる理由が分からなかった。
「俺が眠れなくなったのは、半分は当然の報いだと思ってる。
仮にこのままだとしても、それはそれで仕方ない」
「仕方ないって・・・」
真衣は思わず絶句した。
このまま自分の力で眠ることが出来なければ、命に関わるかもしれないと港川も言っていたではないか。
「そもそも、紗代子をあんな風に死なせたのは、俺にも責任がある」
思いがけない言葉に、真衣は目を見張る。
「どういうこと？」
「日向が言ってたろ。
『紗代子は絵のことで悩んでた』って。
人物画を魅力的に描けないことに、紗代子はずっとコンプレックスを持っていた。
そんな時に尊敬している画家にその事を指摘されちまって、行き詰まったんだ。
元々繊細で不安定になりやすい性格だったから、大学にも行けなくなって、暫く目を離せなかった」
1人にしておくと自分を傷つける恐れもあったため、鶴丸は暫くこの家で紗代子と暮らしていたのだという。
物置に置かれていた本や絵は、やはり紗代子の物だったのだ。
「結婚を決めたのも、少しでも支えになれればと思ったからだ。
でも結局、肝心な時に俺は何の役にも立たなかった」
何かを描こうとしてはすぐにやめ、陽気になって友人たちと宴会を始めたり、かと思えば何日も塞ぎ込んで部屋から出ずに泣いていたりする。
夜中に1人で散歩に出掛けてしまうこともあれば、遠方の駅から途方に暮れたような電話がかかってくることもあった。
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作者名：真 | 作成日時：2023年2月1日 21時
