107 ページ13
「私はね、よく散歩の途中であのお嬢さんを見かけて、何度か話をしたことがあるだけなの。
あの辺りに珍しい黒猫がいるっていうのは近所じゃ有名だった。
でも近づくとすぐ逃げてしまうから、誰もちゃんと見たことがなくて」
山尾夫人が紗代子に声を掛けたのは、誰にも懐かないその黒猫を、紗代子が公園で撫でているのを目にしたからだという。
「綺麗なお嬢さんで、あんまり人と話すのが得意そうじゃなかったの。
けど何度か声を掛けてるうちに、向こうから挨拶してくれるようになって」
警戒心の強い黒猫が紗代子が近づくと、途端にトコトコと近づいてきて、足元に擦り寄る。
遠目にその光景を見て『魔法みたいね』と山尾夫人が言うと、紗代子ははにかむように微笑んで言ったそうだ。
「�爛灰弔�あるんです�瓩辰董�
「コツ？」
息を詰めるように聞いていた真衣は、問い返す。
「ええ。
�爐海了劼傍い貌�られる、とっておきの方法を見つけたんです�瓩辰童世辰討燭錙�
その方法を使えば、あの猫の方から近づいて来るそうなのよ」
おっとりした口調で、山尾夫人はそんな風に語る。
「その方法、聞きましたか？」
真衣が身を乗り出すと、びっくりしたように目を丸くして彼女は答える。
「ええ」
『そんな方法があるなら是非知りたいわ』と尋ねた夫人に、紗代子は隠すこともなく、あっさり教えてくれたのだった。
・
・
・
「眠りを断つ？」
珈琲を飲むことも忘れたように真衣の話に聞き入っていた鶴丸は、眉を寄せた。
「うん。
何日も眠らずにいて、眠くて眠くてたまらないような時になると、何故かあの猫が近づいて来るんだって」
真衣もそれを聞いた時は半信半疑だったが、山尾夫人はあくまで真面目な様子だった。
ーー眠らずにいると、不思議とあの猫と波長が合う気がして。
ーー公園を通りかかると、どの辺りに猫がいるか、何となく分かるんです。
紗代子は黒猫を撫でながら、そんなことを言っていたのだという。
「だから、試してみたらどうかな」
真衣が提案すると、考え込んでいた鶴丸は、不可解そうな顔をした。
「試す？」
「私が何日か眠らずに過ごしてから、どろぼう猫を探しに行ってみるの。
闇雲に探すより見つかる可能性があるかもしれないでしょ？」
幸いなことに、今は大学も夏休みだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 23人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：真 | 作成日時：2023年2月1日 21時
