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しかし日向は留学先で絵の完成を知らされる前に、紗代子の訃報を受け取ったのだ。
「ねえ、鶴丸さんだって見たいでしょ？
紗代子の絵。
あの子のこと、あんなに親身になってたんだもの。
結婚のことだって」
日向の言葉は、不意に途切れた。
鶴丸が珈琲ポットを置いたからだ。
「飲んだらさっさと帰れ。
いくら探しても、無いものは無い」
傍で見ている真衣が息を呑む程の迫力で告げると、鶴丸は日向を睨む。
日向は諦めたように息を吐くと「分かったわよ」と言って帰って行った。
「・・・ごめん。
なんか私、タイミング悪くて」
成り行きとはいえ、気まずい会話に立ち合うことになった真衣は、引き上げ時を見失って俯いた。
「気にするな。
それより、何か用があったんじゃないのか」
鶴丸は自分の分の珈琲をマグカップに淹れると、カウンターに寄り掛かり、立ったまま口をつける。
「ええと」
真衣は話を振られて躊躇った。
この流れで紗代子について話すのは、蒸し返すようで気が引ける。
それでも、ひょっとしたらこの話が何かきっかけに繋がるかもしれないと自分に言い聞かせ、思い切って顔を上げた。
「実は今日、紗代子さんを知ってるって人に会ったの」
珈琲を飲んでいた鶴丸が、ピタリと動きを止める。
真衣は昼間の出来事を話し始めた。
・
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「猫がお好きなの？」
炎天下の児童公園で会った老婦人は、そう言って真衣に話し掛けてきた。
「ええ、まあ・・・。
ちょっと、黒い猫を探してて」
恥ずかしさもあって一瞬逃げたくなった真衣だが、この際人に聞いてみるのも良いかと開き直る。
「青い目をした黒猫なんです。
この辺で見たことありませんか？」
質問してみると、日傘を傾けた老婦人は暫くぼうっと真衣の顔を眺めていた。
何かマズイことを聞いたかと心配になっていると、やがて老婦人は「あるわよ」と、こともなげに答える。
「え、ほんとに！？」
暑さも忘れて舞い上がりそうになった真衣だが、老婦人は落ち着いた声で続けた。
「随分前にこの辺りで何度か見かけたけど、最近はどうなのかしら。
私は暫く息子の家で暮らしてて、こっちに戻って来たのは久しぶりだから、良く分からないけれど」
「見かけたのっていつぐらいですか？」
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作者名：真 | 作成日時：2023年2月1日 21時
