紙切れ【斎藤一】 (ページ7)

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夫が息子を寝かしつけている間に、ローテーブルの上を片付けた。

グラスと皿を洗い、シンクに残されていた灰皿を最後に手に取る。

吸い殻を三角コーナーに振り落とし、軽く濯ぐと、波たっていた心がようやく収まった。

風呂を使った夫がベッドに潜り込んでくる頃には、憤りも喜びもない普段の自分に戻っていた。

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一はその後も、夫に連れられてちょくちょく遊びに来た。

一は相変わらず、月に2度は泊まりがけで広島に出張した。

「僕は出張ってないから、何だか新鮮ですねぇ」と一は言った。

「年度が変われば、頻繁に行かなくて済むようになるって話だったんですけど」と真衣は言った。

一とは距離が保たれたままだったので、自分の勘違いだと思うようになっていた。

「引き継ぎが上手くいってないんだよ。
取引先の奴が無能でさ」

一は偶に、ペーパークラフトの型紙を持ってきた。

息子のためにパソコンで製図し、厚紙にプリントした電車のペーパークラフトだった。

息子は喜んで、床に広げた型紙にクレヨンで色を塗る。

「やまのてせん」「まるのうちせん」などと言っては、何枚もの型紙を緑や赤で塗り分けていく。

勿論、枠内に綺麗に塗ることはまだ出来ない。

それでも一は、息子と並んで床に座り込み「良く知ってるねえ」と楽しげに作業を見守った。

「わざわざすみません」と真衣は謝る。

「いきなり図面を引けるぐらい単純な形だから。そんな手間じゃないのよ」と一は言った。

単純な形と言うが、出来上がった電車は前面が滑らかなカーブを描いていたり角張っていたり。

車両の特徴をちゃんと捉えている。

その夜、息子はオムツをつけていなかった。

暖かくなってきたから、億劫だったが真衣は息子のトイレトレーニングを再開していた。

近いうちに、夫の母親がマンションに遊びに来ることになっていたからだ。

義母は顔を合わせる度に「誠ちゃんは少し言葉が遅いんじゃないかしら」とか「まだオムツが取れていないの？」と言う。

心配から言っているのだと分かっていても、やはり気が重かった。

型紙に色を塗りながら息子がもじもじするので「トイレじゃないの？」と、真衣は何度も声をかけた。