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「ああいうキャラクターだって、紙で作れちゃうんだろ」
「作ろうと思えば作れますけど、ディズニーは版権が五月蝿いからなー。
ペーパークラフトだけじゃなかなか食っていけなくて、バイトもしてるんですよ。
俺はフリーターみたいなもんです」
「どんなバイトしてるんですか」と真衣は口を挟んだ。
一の瞳が真衣を映す。
「剣道教室のコーチ。
ちびっ子相手に教えてんのよ。
あと1つは秘密」
一は手に持っていたグラスを、音を立てずにテーブルに下ろす。
「煙草吸ってもいいですか」
「悪い。
換気扇の下にしてくれるか」
夫が言うと、一はソファーから立った。
「里見さん、煙草やめたんですね」
「ガキが生まれてからな」
夫はグラスに2杯目を作っている。
真衣が対面式のキッチンまで一を案内した。
換気扇のスイッチをつけ、食器棚の奥に仕舞い込んだ灰皿を探す。
一は胸ポケットから煙草の箱を取り出した。
ようやく見つけた灰皿を「どうぞ」とシンクに置くと、一は咥え煙草で「どーも」と言った。
キッチンの窓が細く開いて、煙が分散する。
真衣は一の背後を通り、キッチンの窓を閉めた。
「ああ」と一の声がすぐ近くでし、煙草を持った手が窓に突かれた。
囲い込むようにされて、真衣はびっくりして振り仰ぐ。
「スカイツリーが見えるんだ」
一は外から真衣に姿勢を移し、ゆっくりと体を離して再び煙草を吸った。
長い指が煙草を挟んでいた。
真衣は急いでリビングに戻った。
夫はアニメを見ながら「面白いか、これ」と息子に尋ね、息子は「うん」と頷いた。
「そうだ、週明けまた出張だから。
1泊で広島」
「そう」
真衣は上の空で答えた。
煙草を吸い終え、一がソファーに座った。
「出張、多いんですか」
「この頃、結構な」
「大変ですね」
そう言った一の顔を、真衣は何故だが見られなかった。
日付が変わる頃、一は帰って行った。
玄関のドアが閉まる寸前に、真衣は思い切って顔を上げたが、一はもう背中を向けていた。
真衣は腹立たしく感じた。
急に不可解な行動をとった一を、些細な動作に過敏に反応した自分を、何も気づいていない夫を。
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作者名：真 | 作成日時：2022年11月16日 21時
