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チャイムの音と共に玄関のドアが開いたとき、真衣は酒のつまみになる物を3品拵えていた。
息子はリビングから廊下に出て「パパ！」と夫の腿の辺りに抱き着く。
夫は「たまいま」と言って、息子を抱き上げた。
いつもはせいぜい頭を撫でるくらいなのにと、キッチンから顔を覗かせた真衣は思った。
夫の後ろで、一が靴を脱いで廊下に上がった。
「夜分にすみませんね」と一は言う。
今日もクマが酷い。
「いいえ、ご遠慮なく」と真衣は言った。
リビングに入ると一は「うわ、凄い景色ですねぇ」と窓辺に寄った。
真衣たちの住む部屋は27階建てのマンションの25階だ。
夜になると無秩序な街並みは全て黒く塗り潰され、灯った明かりだけが眼下に散らばる。
「誠くんは毎日、空に住んでるのか」
一は微笑んで、息子の頭にぽんと手を載せる。
真衣はテレビの前のガラスのローテーブルに、つまみの皿や氷を並べた。
寝室で着替えてきた夫が、キッチンで酒のボトルを物色する。
「焼酎と日本酒、どっちがいい」
夫が声をかけると、一は振り返ってローテーブルを見た。
「焼酎がいいです。
ロックで」
窓辺から離れ、黒革のソファーセットに腰を沈める。
夫はグラスに氷と焼酎を入れ、一に渡した。
「夜景なんて珍しくもないだろ」
「自宅でこんな景色を見られるなんて、凄いですよ」
一はグラスにちょっと口をつけた。
呷るような夫の飲み方とはまるで違う。
真衣と息子もソファーの端に座り、音量を小さくしてディズニーのアニメを観ていた。
「いいマンションですね」と一は言った。
羨んでいるわけでも卑屈になっているわけでもない、事実を淡々と述べる調子だった。
「ローンで大変だよ」
満更でもなさそうに夫は笑う。
「お前だって、自分の腕1本でやっていけてるじゃないか」
真衣は急に、夫に対して苛立ちを覚えた。
マンションを購入する資金の大半は夫の父親が出したものだ。
ローンを返済するための給料も、親のコネで入った会社に貰っているものじゃないか。
そう思ってから、そんなことを思った自分に驚いた。
「ミッキー」
息子が画面を指差した。
「そうだね」
真衣は相槌を打った。
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作者名：真 | 作成日時：2022年11月16日 21時
