紙切れ【斎藤一】 (ページ3)

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おかげで真衣は疎外感なく、その場にいることができた。

息子が起きてベビーカーを降りたがったので、会話は30分程で終了。

真衣は息子の手を引いて歩かせ、夫が荷物を持って、空になったベビーカーを押した。

「ここは俺が払う」と夫が言うと、一は特に食い下がることもなく「ご馳走になります」とヘラヘラ笑いながら頭を下げた。

家路につく真衣たちを、一はわざわざ建物の外に出て見送った。

「里見さん。よかったら、今度飲みましょう」と一は言い、夫と連絡先を交換した。

「今度うちにも遊びに来いよ」と、夫は言った。

気のない言葉だと真衣は感じたが、一は素直に受け取ったのか、人の良さそうな笑みを浮かべていた。

一は売店での商品の売れ行きを偵察しがてら、魚の観察に来たのだという。

「じゃ、また」と、今出てきたばかりの建物の方へ身を翻した。

「バイバイ、誠くん」

真衣の横で、息子が条件反射のように手を振った。

電車に乗ってからも、夫はスマホをいじっていた。

「明日の会議のことで、ちょっと会社の奴と連絡取らなきゃいけないんだ」と言った。

真衣は息子の服の襟首を掴んでいた。

ペンギンと同じぐらい電車も好きな息子は、真衣が油断するとすぐ、目的もなく車内の通路を駆け回ろうとする。

「今日は夕飯作りたくない」と真衣が言うと、夫はメールのやり取りを終えたのか、やっとスマホを手放した。

「じゃあ、後でどっかに食いに行こう」

話すべきことはもう何もなかった。

駅からマンションまでの10分弱の道のりを、黙って歩いた。

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真衣は殆どマンションから出ることなく、毎日を過ごす。

買い物はネットの通販で済ませていた。

息子は自分の意思をハッキリと出すようになってきた。

スーパーでは菓子が欲しいと騒ぎ、本屋の前では絵本が欲しいと強請って動かない。

息子を連れて行くのだと思うと、外出する気が途端に失せた。

偶に夫と3人で遊びに行ったり、息子を預けて友人と会ったりする。

でも、あまり楽しくない。

夫は息子の相手に飽きて不機嫌になるし、子供のいない友達とは、いつの間にか話が合わなくなっていた。