紙切れ【斎藤一】 (ページ15)

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「随分いっぱいになったな」

夫が真衣の隣に膝をつき、珍しく片付けを手伝い始めた。

紙の電車を手に取って、1つ1つ眺める。

振り落とされないように、踏み躙られないように、誰もが必死だ。

崖っぷちに立たされた夫は、弱気になって真衣に救いを求めているが、どうせそのうち元に戻る。

誰かを痛め付けたことなどなかったかのような顔をして、女と遊び、会社に居座り続ける。

それでも良いと真衣は思う。

クレヨンでベタつく電車を集めながら、真衣は肩を震わせてひっそり笑った。

「明日は電車の車庫を作ろうか。
段ボールがあっただろう」

「誠は喜ぶと思うけど、作れるの？」

「斎藤ほどってわけにはいかなくても、それぐらいは俺にも作れる」

真衣はそっと夫の肩に手を載せ「ビールでも飲む？」と立ち上がった。

冷凍の枝豆を湯がく間、キッチンの窓からぼんやりとスカイツリーを眺める。

この換気扇の下に、一が立つことはもう二度とない。

真衣が思い起こすのは、この窓に突いた煙草を挟んだ一の手と、背中に感じたほのかな体温だった。

もっと話したいことや、してあげたいことがあったような気もする。

枝豆を盛った器と缶ビールとグラスを2つ盆に載せ、真衣はカウンターを出た。

小さなペンギンが目に留まり、それも盆に載せる。

プロ野球ニュースを見ていた一は、ペンギンに気付いた。

「あれ、こんなのあったっけ」

「ずっとあったわよ。
新作だって、斎藤さんが持ってきてくれたの」

夫は「いつ？」とは聞かなかった。

ただ「へえ」と言って、ペンギンを手に載せた。

「はは、ちゃんと立つ。
あいつホントに器用だな」

「思い出した？」と真衣は聞いた。

「何を」

「斎藤さんの部屋の様子。
彼、言ってたじゃない。
ペーパークラフトがいっぱいあったって」

夫は暫く黙っていた。

真衣はビールをグラスに注ぎ分ける。

「覚えてないな」

やがて夫は言い、ペンギンをローテーブルにそっと立たせた。

「何があるかなんて、よく見てなかった」

「遊びに夢中で？」

夫は少し言葉に詰った後「そうそう」と明るく笑った。

馬鹿みたい。

真衣は心の中で呟いた。

だけど、許してあげたいとも思う。