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夫と接触する機会を窺っていたのだと考えれば、疑問は解ける。
「誰が夫の行動を知りたがってるんですか」
「それは言っちゃいけないことになってるんだけど。
でも、アンタは特別だから教えてあげる」
一は2本目の煙草を吸い始めた。
「里見さんは、さして必要でもないのに頻繁に広島に出張する。
しかも日帰り可能なところを、1泊だ。
全部会社の経費。
同じ部署の社員たちは不満を募らせている。
いくら有力なコネがあっても、無能で無駄遣いばかりする社員に対して、昨今の会社は甘くない。
アンタの旦那は終わりだよ。
さすがにクビは切られないにしても、暫くは閑職に追いやられ、今後の出世も望めないでしょう」
「どうして私は特別なの」
「気にするとこ、そこなの？」
一は笑った。
「俺が真衣さんを好きだから、会いに来るんだと思ってた？」
一の目にはなぶるような、意地の悪い光があった。
真衣は初めて、真衣の方から一との距離を詰めた。
黒革のソファーが、踏まれた小動物の鳴き声のような音を立てる。
「貴方は夫のことが好きなんだと思ってた」
真衣と一は数秒、視線で互いを探り合う。
目を逸らしたのは一の方が先だった。
「大嫌いですよ」
一は吐き捨てた。
「この仕事が舞い込んで来た時、いい気味だと思った」
「復讐しようと思った？」
「気持ちにケリがつかなきゃ、復讐にはならないでしょう。
何をしたって、記憶は消えない」
真衣は一の手から煙草をつまみ取り、灰皿に載せる。
「ペンギン！」と息子が言った。
真衣は立って灰皿をキッチンに下げ、ついでにカウンターからペンギンのペーパークラフトを持ってきて、息子に渡す。
「壊れちゃうから、そっとね。
テレビを見てて」
・
・
「この頃、元気が無いみたい」と真衣が言うと、夫は暫しの躊躇いを見せた後「会社でちょっと困った事になってるんだ」と溜息を吐いた。
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リビングには、電車のペーパークラフトが散らかったままだ。
「斎藤さん、最近来ないのね」
夫は何も気づいていないようだった。
「あいつも忙しいんじゃないか」
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作者名：真 | 作成日時：2022年11月16日 21時
