紙切れ【斎藤一】 (ページ2)

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だから、1番上にあるブレンドを注文。

夫と一のコーヒーも冷めていたので追加する。

3つあるカップは、すぐに運ばれてきた。

「ペンギンって、ちゃんと並んで餌を待つのよ。
殆ど丸呑みしてプールに戻って行くの。
その度、誠は大喜び」

「写真は」

「撮ったよ」

真衣はスマホを開き、いくつかの画像を見せた。

ガラス越しに隊列を作るペンギンたちをバックに、息子が笑っている。

一も礼儀正しく興味を示し、スマホの画面を覗き込んだ。

「里見さんが結婚して、もう子供もいるなんて、何だか信じられないな」

「どう言う意味だよソレ」という夫に「色んな意味ですよ」と、一は笑って受け流した。

「誠くん、いくつですか」

ベビーカーで眠る息子から真衣へと、一の視線が向けられた。

「2歳になりました」

「可愛いですね」

そう言って一はコーヒーを飲んだ。

目の下にクマと、スッとした顎のラインと、カップを持つ大きくて器用そうな手を、真衣は見ていた。

一はカップをテーブルに置き、また微かに唇の端を上げる。

真衣は息子が眠っているか確かめるフリで、傍のベビーカーに視線を逸らした。

「お前、結婚は？」

「できると思いますか、僕が」

「・・・こいつ、ペーパークラフト作家なんだって。
俺はてっきり、警察にでもなったのかと思ってた」

夫に言われても、真衣には何のことだか咄嗟に分からなかった。

「紙で立体の動物や車を作る工作があるでしょ。
あれの型紙を作る仕事です」

「ああ」

真衣は頷く。

「イルカやクマノミの工作キットが、水族館の売店にありました」

「皇帝ペンギンもありますよ。
僕が製図したんです」

「昔からそういうの得意だったっけ？」という夫の言葉に、一は苦笑してみせた。

「ま、細かい作業は好きでしたね。
僕の部屋に、ペーパークラフトもプラモもいっぱい合ったでしょ。
何度も来てたのに、気づかなかったんですか」

「あんまり覚えてないなあ」

「里見さんはホント、記憶力悪いなあ」

それからひとしきり、夫と一は高校時代の思い出話をした。

剣道部での話だとか、夫が毎学期必ず赤点をとった話とか、そんな他愛もない内容だ。

一は真衣に分かりやすいよう話を補足したり、冗談めかして話題を振ってくれた。