すーずめ！ (ページ9)

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湿った夜のアスファルトの匂いを、俺は胸いっぱいに吸い込む。

うむ、今日もこの街は平和なようだ。

夜の散歩は特に好きだ。

人も車もあまり通らないから、世界に鈴芽と俺しかいないような、良い気分になる。

楽しいな。

鈴芽と歩くと、そこが例え見慣れた道であっても、俺はいつもワクワクする。

ところが今夜の鈴芽は、何だか沈んでいるようなのだ。

「見ろよ、鈴芽。
吐く息が白いぞ」

話しかけても、伏目がちに歩みを進めるばかりだ。

「・・・何かあったのか？」

鈴芽は今日、何処かへ出掛けて行った。

病院ではない。

仕事用の鞄ではなかったから。

俺は快く鈴芽を送り出し、留守番をしていた。

鈴芽が俺を凄く頼りにしていて、俺がいるから安心して外出できるんだってことを、ちゃんと知ってるからな。

夕方に帰ってきた鈴芽からは、草太の匂いがした。

アイツと会ってきたというのは気に入らないが、まあ、偶にはデートという餌を与えても良いだろう。

草太からは、この前ガムを貰ったしな。

俺なんか日に2回も鈴芽とデートしてるわけだから、その辺については、寛大な心を見せておく。

そんなことより気になったのは、帰って来た鈴芽が、ちょっと元気が無いように見えたことだ。

いつもと変わらず「散歩に行こうか」と声を掛けてきたから気のせいかと思っていたが、やっぱり様子がおかしい。

「何か心配事か？」

俺は、ちょっと遅れてついてくる鈴芽を振り返る。

「夜道でも危なくないぞ。
暴漢が襲ってきたら、俺が撃退してやる」

鈴芽は黙っている。

俺はどうしたら良いのか分からなくなった。

鈴芽が何かを悩んでいる。

だけど、その原因が伝わってこない。

散歩ルートの途中に、ある小さな公園に入る。

街灯に照らされた、ジャングルジムと滑り台。

夜の公園では、遊具までが寂しそうだ。

桜はもう、全て散ってしまった。

鈴芽はベンチに座る。

俺は鈴芽の前に立って、鈴芽が悩みを打ち明けてくれるのを待つ。

「また寒さが戻ってきたね。
春は天気が不安定だから」

「うん。
でも、それもそろそろ終わりだ。
葉っぱが一斉に芽吹く気配がしてる」

俺は鼻をひくつかせた。

そんな俺の顔を見ていた鈴芽の頬に、突然涙が転がり落ちる。

「どどど、どうしたんだ鈴芽！」

俺はびっくりした。

鈴芽が泣くなんて、これまで無かったことだ。