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私たちは黙って、ひたすら鍋に箸を伸ばす。
溢れそうだった野菜が半分ほど減り、沈んでいた鶏肉に行き当たりはじめた頃、インターフォンが鳴った。
「(相手の名前)、私」という声に驚いてドアを開けると、薄手の黒いセーターを着た真衣が、背面を闇に溶かして立っていた。
「どうしたんですか真衣、コートも着ないで」
「平気。
車で来たから」
真衣は頬の皮を僅かに動かす。
笑ったつもりなのだろうが、それは表情とは言えず、ただの痙攣に見えた。
「上がって。
ちょうど鍋をしていたんです。
残り物ばかりで悪いけれど、片付けるのを手伝って下さいな」
冷えた手首を取って促すと、真衣は夜から生まれるように、部屋の明かりの内側へ入って来た。
居間の戸口に立った私と真衣に、様子を伺っていたらしい童磨がすぐ振り返り、声を掛ける。
「こんばんは、童磨です」
真衣が何も言わず童磨を見ているので、私が童磨に「友人の紀村真衣」と紹介した。
童磨は納得したように頷き、立って台所から椀と箸を持って来て、真衣に渡した。
真衣はそれらを掌に載せたまま、テーブルからやや離れた位置に座る。
「付き合ってる人がいたんだね、しのぶ」
どこか抑揚を欠いた口調で真衣は言った。
「今まで1度も紹介してくれた事ないから、しのぶは誰とも付き合ってないんだと思ってた」
私はその時付き合っている相手を、友人に会わせるのを好まない。
グランドキャニオンに流星を見せたところで、何の意味があるだろうか。
両者は私の中で決して交わることのない存在だ。
それにもし万が一、私の眼前で流星が気を変えてグランドキャニオンに落下するのを選んだら、大惨事になる。
だから私は、流星を1人で眺めているのが好きだ。
しかし真衣に関していえば、男を会わせなかったのには、もう1つ理由がある。
この変わった女と自分が友人だと、恋愛相手に知られたくなかったのだ。
真衣について男が少しでも批判的な言葉ーー例えば�猜僂錣辰討襪有瓠次爾鯏任い燭修僚峇屬法∋笋麓�分を否定されたような気持ちになる気がしたから。
「今日、由雄が電話したでしょう」
真衣は感情を凍結させたような声音で言う。
「スマホの履歴に(相手の名前)の番号があった。
会ったの？」
「ああ、はい」
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作者名：真 | 作成日時：2022年9月28日 16時
