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悪霊に怯え進化論を否定する時と同じ眼差しで、かつて紀村由雄は、真衣に見つめられていたではないか。

存在を感じた上で、全てを受け入れ愛すると表明するその視線に、紀村由雄も応えたのではなかったのか。

真衣がおかしいというなら、前からだ。

真衣がおかしいというなら、多くの人が同じようにおかしくなったことがあるはずだ。

難しく考えることはない。

あなたの戸惑いは、妻の目が他の男へ向いていると分かった男の動揺と、何ら変わるところはないのだから。

それでも構わないと愛するか、もう一緒にやっていけないと言い渡すか、決断すれば良いだけのことだ。

そう言ってやりたかった。

紀村由雄には理解出来ないだろうと分かっていたから、黙っていたけれど。

時間が来たので、話を切り上げるために「何かあったら、また連絡して下さい」と、ラインを教える。

紀村由雄は「これが僕のです」と言って、彼の名前を私にメッセージとして送った。

私のスマホは手の中で生き物のように、音もなく1度震える。

液晶に表示されたこの相手に、私からメッセージを送る日は来ないだろう。



























































アパートへ帰ると、合鍵で上がり込んだ童磨が台所に立っていた。


「お帰り」


自分の住処は別にあるのに、当然のように童磨はいつも『おかえり』と言う。


「ただいま。
何してるんです?」


童磨は湯気の立つ鍋の中から、菜箸で大きな昆布を引き上げる。


「鍋でもしようかと思って。
どうかな?」

「奇遇ですね、私も考えてました。
でも、昆布なんてウチにありましたか?」

「今日、話を聞きに行った自然食品の店で貰ったんだ」


服を着替えるのは後回しにして台所に戻った時には、冷蔵庫で萎びかけていた野菜はほぼ全て切り終えられていた。

包丁を受け取って交代し、冷凍したまま1ヶ月が過ぎようとしていた鶏肉を切る。

薄く色づいた出汁の味を軽く調えてから、具材を順番に鍋に投入した。

童磨はその間、居間で缶ビールを飲みながらテレビを観ていた。


「はい、出来ました」


鍋を居間のローテーブルに運ぶ。

電熱器がないから、冷めないうちに食べなければ。


「あ、ご飯炊いてません」

「いいよ、とりあえず食べよう。
冷蔵庫の中身を丸ごと腹に移すんだから、どうせお米が入る余地なんかなくなるよ」

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作者名: | 作成日時:2022年9月28日 16時

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